高級車の盗難はどうして防げない? 特定の日本車ばかりが狙われる理由:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
一般的な窃盗と比べるとクルマの盗難はちょっと特殊だ。どうして特殊なのか。
韓国のサプライヤーに訊いた現状と課題
以前、某ドイツ車の自動運転開発に従事している人物に、日本において日本製の高級車が盗難に遭っている理由を尋ねてみたことがある。すると、あくまで私見だとした上で「日本車は自動運転などに対応するために後からデバイスを追加しやすい構造になっているのではないか」と語った。
これが本当なら、セキュリティ上の欠陥とまでは言わないが、クルマ泥棒を甘く見ている自動車メーカーやサプライヤーの危機意識の低さはありそうだ。
先日、とある展示会で韓国のパーツサプライヤーと接する機会があった。現代や起亜などの韓国メーカーのほか、日産にもパーツを供給している実績のあるサプライヤーだ。
そのブースでは車内でエンターテイメントを楽しむためのシステムを展示していたほか、スマートフォンを利用したユーザー認証による車両セキュリティシステムを提案していた。
そのシステム図を見るとスマホと車両間や車両の操作系は信号を暗号化しているが、車内のCAN通信は暗号化されていないことが分かった。それをエンジニアに確認すると、残念ながら現時点ではネットワークの末端まで暗号化することは難しいようだ。
それは搭載するマイコンのレベルを数段階上昇させることが必要であり、システムの開発コストと生産コストが跳ね上がることにつながる。だが自動車メーカーも、コストの問題はあってもセキュリティ対策を根本から見直す必要があるのではないだろうか。
クルマに限らず、セキュリティシステムとそれをサイバー攻撃するハッカーとはイタチごっこであり、高度なセキュリティシステムを完成させても、それで終わりということはないが、クルマが高額化していく以上、財産として守っていく必要があるのは当然のことだ。
旧車のスポーティカーなど人気が上昇しているクルマのオーナーの場合は、クルマ泥棒から愛車を守るためには、ユーザー自身も市販のセキュリティシステムを追加するなど、万全の体制を敷く必要が出てきた。
最新のクルマにはセキュリティシステムが装備されているが、無防備なユーザーは簡単に狙われて盗まれてしまうだけに、人気車種は太い鎖で各ホイールを縛り付けるなど、物理的で頑強なロック機構による抑止力も利用するべきだろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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