“黒船”にも飲み込まれず 5坪の店から始まった秋田のパン屋が90億円企業に成長した軌跡:地域経済の底力(5/5 ページ)
売上高90億円前後と、全国の製パンメーカーの中でも有数の規模になった「たけや製パン」。幾多のピンチを乗り越え、ここまでの成長を遂げたのは、創業者・武藤茂太郎氏の決断力と人間性が大きい。強さの源泉を探るべく、茂太郎氏、そして同社の歴史をひもとく。
「変化に対応できた企業だけが生き残る」
業務提携によって、たけや製パンは“第二の創業”といえる大きな転機を迎えた。秋田県におけるコンビニ「デイリーヤマザキ」の総代理店として、新たな事業をスタート。当時、秋田にコンビニはなく、その先駆けとなった。評判も上々で、店舗数を拡大していき、ピーク時には100店を超えた。
「(茂太郎氏には)将来何が流行(はや)るのかという先見性があった。いち早くデイリーヤマザキの事業を検討したとき、皆からは反対された。『こんなものをやったってしょうがないじゃないか』と。それでも、頑としてやると決めた。関連会社で米飯も手掛けているので、パンだけでなく、おにぎりや弁当も売れました」(真人氏)
業務提携によるもう一つのメリットは技術交流だ。地方企業が中央の大企業から技術を学べるまたとない機会を得た。たけや製パンの社員が山崎製パンに出向いて研修したり、製造ライン強化のアドバイスなどを受けたりした。
古今東西、大手資本が地方の会社を駆逐することは世の常だ。そうした中でも生き残ることが創業者に課せられた使命といえるだろう。それを示してみせた茂太郎氏の意志は、真人氏にも受け継がれている。
「私の信条は、時々の顧客の変化や市場の変化に素早く対応すること。変化に対応できた企業だけが生き残る。大企業が全て勝つのではない。そう信じています」
戦後間もないころから秋田の人たちの胃袋を満たしてきたたけや製パン。これからもこの地域になくてはならない存在だと強く感じた。
著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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