大丸東京店の“売らない店舗”「明日見世」がオープン1周年 つかんだ手応えは?:新ビジネスモデルは定着するか(2/2 ページ)
近年、百貨店を中心に「売ることを主目的としない」新たなビジネスモデルが広がる。「売らない店舗」といった愛称で知られ、実際の店舗に商品の見本だけ置き、利用者には体験の機会を提供。その後、QRコードを読み込んでECサイトから購入してもらうという流れだ。リアル店舗とネット通販の融合――。関係者に話を聞いてみると、百貨店と出店者の双方にメリットが生まれているという。
こうしたデータ算出を可能にしているのが、1月から始めた、NTTドコモのAI顔認証ソフトウェアの活用だ。ブランドのブースごとに専用のカメラを設置。カメラが来店客の顔を捉え、年齢や性別、滞在時間、来店者がよく立ち止まる位置のほか、時間帯別の来店者数などを算出する。
これらのデータ分析から、百貨店側はブランド展開に最適な商品の配置などを把握することが可能になる。「データの取得は、百貨店の店舗展開の最適解を探る上で大きなメリットになる」と廣澤さんは話す。
出店者にとってのメリットは?
メリットは百貨店側だけでなく、出店者側にも及ぶ。分析データや、アンバサダーが来店者から聞き取った商品への感想のフィードバックを受けられ、商品の改善や次の展開に生かすことができる。
さらに、出店者側は見本商品を出品するだけで、店頭在庫を抱える必要がない。このため、出店費用を安価に抑えることができる。リアル店舗への出店経験がないブランドにとっても、出店へのハードルが低まる。
また「百貨店に出店した」という“お墨付き”を得ることができ、認知度も広まる。ブランドにとっては、次への販促に向けたきっかけができる。廣澤さんは「百貨店の信用力は普段あまり目に見えないが、明日見世で出店者から好評の声を聞き、百貨店が持つブランド力を再認識できた」と話す。
今後の課題は?
一方で、課題も見えてきている。明日見世は社内では「実証実験」との位置づけで、本格的な事業化には至っていない。現在、百貨店側が得る利益は出店料のみといい、事業化を目指すためには「収益の複線化」が欠かせないと廣澤さんは話す。
このほか、来店者の中には「この場で商品を購入したい」と話す人もいるといい、ショールーミングのあり方も検討の余地がありそうだ。
オープンから1年を迎えた明日見世では、9月21日から第5弾「持続可能をかんがえる」をテーマにした新たなブランド展開を始めた。来店客アンケートで、希望する出店テーマを募ったところ「持続可能」といった回答が最も多かったという。廃棄される魚のうろこを再利用した革小物やアクセサリーを展開する「Ocean Leather」(高知市)など、ユニークな19ブランドが出店する。
廣澤さんは「出店者による週末のワークショップや商品体験会、1周年記念イベントなども開催し、明日見世の魅力をより広めていきたい」と話している。
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