インボイス制度で声優の2割が廃業も? インボイス反対のVOICTION甲斐田裕子氏に聞く(2/3 ページ)
「税金を納税したら生活できなくなる人が出てくるのは、やっぱりおかしい。払える人が払って、払えない人が恩恵を受けるべきなのに、苦しい人がもっと苦しくなって、格差が広がっている」。インボイス制度がもたらす歪みについて、こう表現するのは、声優の甲斐田裕子氏だ。
ーーインボイス制度に反対する声優たちの活動としてVOICTIONを立ち上げました。どういったきっかけだったのでしょうか。
甲斐田裕子氏(以下敬称略) 去年(2021年)に、この制度の中身を知ったときに、これは声優業界が大打撃を受けるのは確実だと思いました。ただし、消費税については払って当然かもしれない……という思いもあって、そこから消費税の勉強を始めたのです。勉強していくうちに、インボイス制度はやはりおかしいと確信していきました。
(21年の)衆院選前には一人で何ができるか考えてましたが、自民党が勝ってインボイス制度の実施がますます確実になっていきました。そこで、「STOP!インボイス」という、個人事業主やフリーランスの団体にTwitter上で協力するようになりました。
こうした活動に自分の名前を出すのは怖いし、抵抗がありましたが、自民党が(22年の)参院選でまた勝って、これはあかんと。遅いかもしれませんが、自分の名前を出してインボイス制度に反対する活動をしようと思い、声優の先輩方3人と立ち上げた団体です。
ーーなぜインボイス制度に反対なのでしょうか?
甲斐田 私にとって仕事の核は、いい作品を作り続けることです。ところが、20〜30年続く不景気によって声優業界でもどんどん予算が削られて、声優のギャランティも20年前のままです。作品の質よりも、売れるかどうかとか、声さえ入っていればいいという作品作りを見かけることが増えてしまいました。
生活が厳しくて(声優を)辞めてしまうベテランの人もいますし、新人が安いギャラで使い捨てにされてしまうのも目の当たりにしています。原因の根本は長年続く不景気にあります。そこに追い打ちをかけるのがインボイス制度です。
一度文化や技術がついえてしまったら元には戻りません。日本の文化の灯火を消すようなことを、国が進めていいのでしょうか?
ーーインボイス制度のどういった点が負担になるのでしょう。
甲斐田 この業界では半数が年収300万円未満です。頂点にいる一握りの人は1000万円以上稼げていますが、そうでない人は生活するのでやっと。そういった人たちが、税理士を雇えるかといえば、雇えません。
自身で作業をしなくてはならない中で事務作業が増大します。もらった領収書が使えるのかどうか(※消費税の仕入税額控除が可能な適格請求書かどうかを確認すること)、自分で仕分けをしなくてはなりません。
福宮あやの氏 ギャランティを受け取るときも手数が増えることになります。現状は、事務所が計算して銀行口座に入金して、それだけで終わっていますが、インボイス制度が始まると、請求書を出す必要があります。事務所が書面を用意して、声優側はそれを確認して提出するという流れになると思いますが、簡単ではありません。請求書の回収だけ考えても、事務所側もたいへんになります。
甲斐田 インボイス制度は負担しか増えない、細かいことの積み重ねで身動きが取れなくなる制度です。若いときにやってほしいのは、自分の中の糧を蓄えていくことですが、事務作業は糧になりません。その時間を本当は作品に向けたり、自分に向けたりしてほしいと思います。
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