「専業主婦=怠惰」の風潮はなぜ生まれる? 就労タイプを4分類して見えること:増え続ける“働く母親”(4/4 ページ)
働く母親は7割を超え、年々増加の一途をたどる。一方で、働きたくて働く母親、働きたくないのに働かざるを得ない母親など、その内実はさまざまだ。個人の願望などをもとに就労状況を4つに分類すると、就業をめぐる課題解決に向けたヒントが見えてくる。
一方、本意型不就業者である母親の大半は自ら望んで専業主婦となっている本意型専業主婦です。基本的には夫などの収入で生活ができ、働かないという願いが満たされている状態なので一見課題はないように思えます。
「専業主婦=怠惰・気楽」の風潮はなぜ生まれる?
しかしながら、自分としては本意の状態にあったとしても、専業主婦であること自体に後ろめたさを感じてしまうケースがあります。働く母親が4分の3を占める社会で、専業主婦は少数派です。そのことが「働くことが当たり前」という機運を生み、働いていない専業主婦に疎外感を与えてしまったり、「怠けている」「気楽でいいご身分」などと否定する風潮を生み出してしまったりします。
確かに、本意型専業主婦の中には専業主婦とは名ばかりに同居する祖父母に任せきりで、家事も育児も放棄して自分は遊び惚(ほう)けているケースもあるようです。しかし、誇りを持って家事に取り組み、家族を全力でサポートしていたり、夫婦で話し合いをして、納得のもとに育児や介護に専念していたりとさまざまなケースがあるのです。
働く母親が増えるにつれて、反比例する形で専業主婦の母親はより少数派になっていきますが、働きたいのに働けず不本意型専業主婦になっている母親もいれば、本意型専業主婦でもさまざまな思いや考えを持って主婦業に取り組んでいる母親がいます。それらの内実を見ずに「専業主婦=怠惰・気楽」などと決めつけるのは一面的な見方でしかありません。
かつては「母親が働くなんて」と非難された時代があったことから考えると隔世の感がありますが、少数派が色眼鏡で見られてしまう風潮は、立場を逆転させる形で残念ながらいまの世にも少なからず残っています。その状況を解決するには、一人ひとりが専業主婦に対する色眼鏡を外していく必要があります。
以上のように、母親という属性にフォーカスしただけでもタイプによって課題やその解決策は全く異なることが分かります。また、就業状況と本意・不本意の4分類は、あらゆる立場、属性の人たちに当てはめることができますが、4つのタイプの中にもそれぞれ異なる事情や希望条件があるため、4分類もまた大きな括りでしかありません。
就業状況をめぐる課題を解決する際に、ざっくりとした括りだけで対処しようとすると誤った認識に陥りやすくなります。最適な解決策を導き出すために、個々の事情を尊重しつつ内実を丁寧に確認しなければ、誤った認識に引きずられたまま、誤った処方箋を出すことになってしまう可能性があるのです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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