「DX人材を獲得したい!」 そう意気込む企業が、まず陥る失敗とは:社内の“不満”はなぜ募る?(3/3 ページ)
難易度がますます上がっているDX人材の採用を実現するには、企業はどうすれば良いのでしょうか。よくある失敗パターンを基に、必要な取り組みを解説します。
DX人材を採用したい
次にDX人材の採用において見落としがちなことが、現業との融合・共存です。これについては3つのポイントがあります。
(1)IT・デジタルリテラシーと“ゴールまでの距離感”のズレ
DX人材を採用する上でよく聞く課題が「経営陣を含むレポートラインにIT・デジタルリテラシーがなく、やれること/やりたいことの整理がなされてない。結果、DXとは名ばかりの仕事・職種に終わってしまっている」ということです。
上述の通り、経営陣は流行のDXを推進したい意気込みはあるものの、実際にそれを実現するプロセスや社内でのコンセンサスが取れておらず、ゴールまでの距離感(時間・コストなど)の理解が現場と合わないことで、プロジェクトが頓挫するケースが見受けられます。
こうしたズレによって、DX推進を担うキャリアパーソンがストレスを感じることが多く、早期離職につながってしまいます。競争が激化しており、良くも悪くも情報が流通しやすい現在の採用市況において、こうした調整は非常に重要なポイントです。しっかりと対応しておき、ステークホルダーの理解があるという受け皿を作っておくことが肝要です。
(2)既存社員との待遇格差
いわゆるDX人材は、そもそも国内における母数が他人材群に比べても圧倒的に少なく、専門性や希少性が高い人材です。年収1000万円超の人材も多く存在するため、従来では考えられなかった好条件を提示し、採用を成功させる企業も増えています。
こうしてDX人材を好待遇で迎え入れる一方で、既存社員については従来の給与テーブル・評価基準を継続しており、トラブルや不満につながるケースがあるのも事実です。「ジョブ型雇用」がほとんどである外資系企業のように、その専門性や希少性が理解されている企業風土であれば別ですが、いまだ根強い「年功序列」を重んじる会社や人々が、この「待遇格差」を良しとしない場合もあります。
そもそもDXはDX人材だけで成り立つのではなく、基本的に既存社員・既存事業との融合ありきで推進していくものです。DX人材と既存社員で諸条件に格差があることが露呈し、新規領域(DX)と既存領域がうまく融合しない、協業できない、といったケースもあるようです。
DXに向けた人材採用がどれほど大切か、DX人材の採用がどれだけ難しいかなどを既存社員にも理解してもらったり、DX人材の採用に向けた制度を個別具体で作っておいたりすることで、こうした問題に対処できます。
(3)評価基準・働き方
DX人材の採用ターゲットは、コンサルティングファームやIT系企業出身者が多いです。新たに入社したDX人材の人事評価のレポートラインにつく社員が、そういった企業出身でなかったり、既存事業を長く担当していたりする場合、DX人材の評価基準が曖昧になってしまう可能性があります。
そもそもDXや新規事業が成り立つには時間がかかるものです。その中でもしっかりとプロセス評価を組み込んでおき、「何年働いても、どういった取り組みを行っても条件が良くなっていかない」などの懸念はできるだけ解消できる評価基準を持ち合わせておくべきです。
また、特にIT人材に対しては昨今のコロナ情勢により、リモート勤務体制を拡充し、各企業でその状況に即したネットワーク環境や機器の準備が当たり前となっています。加えて副業に対して柔軟な対応を取る企業も増えてきています。
現在のトレンドに即した働き方や環境を準備しておくことも、競争率の高いDX人材から選ばれやすい企業になる手段の一つです。
DX人材を「探す」前にできること
「DX人材が欲しい」と言うは易し、行うは難し。この市況感の中で勝ち抜くには手段・手法ももちろん大事ですが、「探す」という実際の行動に入る前段階も重要です。
一番身近な社内からどんな情報を集めて役立てるかや、ターゲットとしている人材が入社後に活躍し続けられる環境であるかといった点を念頭に準備を始めるのが、大事な第一歩なのではないでしょうか。
著者プロフィール
青木 裕一
エンワールド・ジャパン 日系部門 アソシエイトディレクター
2006年エン・ジャパン株式会社入社、その後ドリコム、リクルートエージェント(現リクルート)を経て、2014年よりエンワールド・ジャパンに入社。日系企業×IT・インターネット業界・DX人材領域のコンサルタントとして配属され、2020年より同領域のアソシエイトディレクターに着任。現在は、投資ラウンドのシード期からシリーズC前後に至るスタートアップ企業の経営層・ハイクラス・ミドルポジション、およびレガシー系企業×DX系職種を中心に採用支援・転職支援を行っている。
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