パナマ運河に匹敵? パラグアイの“交通革命”から見える地政学(2/3 ページ)
南米パラグアイにこのほど、新たな道路が開通した。新ルートが物流に与える影響や可能性について考察した。
パナマ運河不要、輸送コスト3分の1になる可能性
この道の開通の何が画期的かといえば、それが周囲の国の経済に及ぼす潜在的な影響力の高さだ。
まずこの地区はグランチャコとよばれる広大な半砂漠地帯であり、日本では北海道とほぼ同じ広さのある場所だ。沼や雑草が生える程度であり、人はほとんど住まない厳しい環境にある。
もちろんこの地帯を横切る道(未舗装)は以前から存在したのだが、今回の舗装路の建設は、そこを横断してブラジルからチリまで舗装路でつなぐ、2015年末から本格的に始動した南米の大インフラ計画(Bioceanic Road Corridor)の一部である。
これが完成すると、南米だけでなく、アジア経済に及ぼす影響も大きい。というのも、世界の大動脈でチョークポイントでもあるパナマ運河をショートカットできる運搬路(輸送コストが3分の1になるという試算も)が完成するからだ。完成後はブラジルが輸出する大豆やパラグアイ産の牛肉が、チリの港を通じてアジアの市場(主に中国)を目指すことになる。英エコノミスト誌も4月30日付けの記事で、この新ルートがパナマ運河のライバルになる可能性に言及している。
もちろん陸路を提供しているパラグアイやアルゼンチン、そしてチリなどもその恩恵を受けて、トラックを始めとする物流関連の産業が活況になることは言うまでもない。
「通り道」の変化
これは実に地政学的な話である。その理由は、地政学的アプローチにおいて重要視される「通り道」の変化に関する話だからだ。
一般的に地政学というのは国同士の土地争いに注目する考え方だと思われがちだが「近代地政学の祖」とされるハルフォード・マッキンダー(1861〜1947)は、地理と歴史と国際政治の関連性を説明する中で、欧州の交通機関の変化(馬から帆船)が大航海時代を生んだことを踏まえつつ、結果として「交通革命による通り道の変化が世界の歴史を動かしてきた」と分析している。
それをさらに発展させたのが、米トランプ政権でも国務省の官僚を務めた、ヤクブ・グリギエルというポーランド出身の米国人学者だ。
彼は自身の博士号論文を元にした2006年の『大国と地政学的変化』(Great Powers and Geopolitical Change: 未邦訳)という本の中で、ベネチア、オスマン・トルコ、中国の明王朝という3つの大国が16世紀に直面した交通路や貿易路、そして資源の場所の変化に、いかに大きな影響を受けたのかを考察している。
もちろんこれは古い時代の話であり、現代のようなインターネットや情報空間が広まった時代に、陸上の交通路の変化がどこまで影響を及ぼすのか疑問視する声も当然であろう。
ところがパラグアイのように、それが大きな交通革命となり、周辺国にとっては大きなビジネスチャンスにつながると考えられることを考えれば、このような「通り道の変化」は無視できない。
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