島根県松江市の町おこし、起爆剤は「まつもとさん」 IT企業など40社を誘致:ヒントはまつもとさん(2/2 ページ)
町おこしといえば観光業のイメージが強いが、観光以外はどうすればいいのだろうか。島根県松江市は意外な方法で地方創生に取り組んでいる。累計企業誘致件数40件を支えた町おこしの”宝”とは?
IT人材の流出につながるのでは?
産官学の強固な連携により、松江市内にIT人材が生まれる好循環が作れているように感じる。しかし、ここで一つの懸念が生まれる。手塩にかけたIT人材が県外に流出してしまうのではないか? という点だ。
経済産業省は19年に公開した調査の中で、2030年に最大79万人のIT人材が不足すると報告している。昨今のニュースからも明らかなように、IT人材争奪戦は激化しており、せっかく育てた人材が高い給料につられ都心部や海外に流出する可能性は否定できない。
「人材流出の懸念は松江市に限らず、地方の企業だとよくある話だと思います。給与面で人材流出を防ぐのは難しいと思う一方、生活のステージで考えると人によって価値観は変わってくるのではないでしょうか。子育て世代はどこで暮らすかをベースにキャリアを考える人も一定数いると思います。年収から生活の場所に優先順位を変えた人が松江市に移り住んでいる印象です」(曽田氏)
移住者の心理的な変化はあるものの、人材流出を防ぐために島根県と連携しITエンジニア専用のUIターン転職を支援している。特設サイトでは、島根IT企業訪問ツアーのレポートやIT関係の移住者へのインタビュー記事なども公開しているほか、UIターン経験者を招いたイベントの告知などの情報を発信している。
人材流出を食い止める施策として、曽田氏は今後の企業誘致においてもできることがあると話す。現在、同市が誘致できている企業は受託開発系が多くを占めている。今後は自社サービスを持っている企業の誘致や松江市での起業を考える人の支援も強化していく。
「現在、市内で就職するとしたら地元企業か受託開発系の企業が多くなります。市内の学生を対象にアンケートを取ったところ、ゲーム会社で働きたいという声もありました。働き方の選択肢を増やすという点で、自社サービスを開発している会社などの誘致や起業支援にも力を入れていきたいです」(曽田氏)
Rubyはプログラミング言語として圧倒的な地位を確立している。その実績は、国内だけでなく、AirbnbやGitHub、huluなど海外の有名企業がサービス開発に活用していることからも分かる。地方創生というと、有形資産に目がいきがちかもしれないが、無形資産をうまく活用することで松江市のように大きな成果を生み出せるかもしれない。
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