海外D2Cブランドが、日本で朝のラジオ番組のパーソナリティーを務めるワケ:ヒントは顧客体験(1/3 ページ)
東京・原宿に店舗を構えるサンフランシスコ発の靴のD2Cブランド「Allbirds」は、なぜ日本で朝のラジオパーソナリティを務めるのか? その理由は、顧客体験の観点から説明できるという。
本記事は、東芝テックCVCのnote「D2Cブランドのチャネル展開。カギは顧客への「おもてなし」と「伝え続けること」」「Appleやコーセーに学ぶ、“体験”の作り方〜実店舗の顧客体験を考える(前編)〜」をITmedia ビジネスオンライン編集部で一部加筆・編集の上、転載したものです。
有名ブランドからメーカー、新鋭のD2Cブランドまで、多様な企業がロイヤルカスタマーを獲得する方法として、顧客体験(CX)づくりにチャレンジしています。
今回は小売業のDXを支援する「店舗のICT活用研究所」代表の郡司昇氏に、顧客体験の作り方や体験価値を上げる実店舗の取り組み、具体的に活用できそうな施策のポイントなどをお聞きしました。
なぜ靴のD2CブランドAllbirdsは、朝のラジオ番組のスポンサーを務めるのか?
――ロイヤルカスタマーを獲得するためには、そのブランドの「世界観」や「価値観」に共感してもらうことが大事だと思います。何か具体的に参考になりそうな事例があれば教えていただけますでしょうか?
郡司氏: 私はよくラジオを聞くのですが、AllbirdsというアメリカのD2Cシューズブランドが朝のラジオ番組のスポンサーを務めています。ゲストは環境関係の有識者やスタートアップの方など、朝にラジオを聞く層にマッチしているとはあまり思えません。なぜ、アメリカのD2Cブランドがわざわざ日本の朝のラジオで番組を持っているのだろう? とずっと疑問に思っていたのですが、あることに気付きました。
毎日いろいろなゲストが環境や社会をテーマに話していれば、そういった課題に興味がある人たちが自然とリスナーになります。おそらく、その番組を聞き続けているうちに、Allbirdsというブランドに好意的な印象を持つようになると思うんです。ラジオというメディアをうまく使うことによって、ある意味、顧客を選んでいるんです。一人でも多くの人に聞いてもらうことを目指すのではなく、環境や社会問題に興味がある人だけに聞いてもらうことで、ファンとの深いつながりを形成する。そのリスナーはきっと、靴を買い換えるタイミングでAllbirdsのWebサイトや店舗を訪れるはずです。
――なるほど、ラジオという接点を通して、「世界観」や「価値観」を伝え続けることで自然とファンになってもらうというわけですね。D2Cの事例でいうと、オーダーメイドのアパレルブランドを展開するFABRIC TOKYOも「Fit Your Life」というブランドコンセプトを伝えるために、Webサイトで自分らしく生きる人たちのストーリーを展開しています。例えば、さまざまな業種で働く人たちのそれぞれの生き方や考え方などをインタビューし、「編集後記」ではその方の特徴やライフスタイルに合わせてどのようなスーツを提案したのかを紹介しています。こういったストーリーを通して、「FABRIC TOKYO」は一人一人の話に耳を傾け、その人に合った服を提案してくれる、というイメージが醸成されていくのではないかと思います。
もしかすると、普段スーツを着る機会がない人もFABRIC TOKYOのストーリーに触れていれば、ふとスーツを着てみたいと思った時に候補として想起するかもしれません。そのあたりもAllbirdsとの共通点がありますね。
郡司氏: そうですね。FABRIC TOKYOはパートナー企業の生地工場や問屋が抱えている生地の不良在庫を安売りするのではなく、生地のストーリーをあらためて伝えることでレアな存在であることをアピールするキャンペーンをしていました。D2Cで成功しているブランドは、自分たちのファンにあらゆる手段でメッセージを伝え続け、顧客体験を高めることを得意としているブランドが多い印象です。
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