海外D2Cブランドが、日本で朝のラジオ番組のパーソナリティーを務めるワケ:ヒントは顧客体験(3/3 ページ)
東京・原宿に店舗を構えるサンフランシスコ発の靴のD2Cブランド「Allbirds」は、なぜ日本で朝のラジオパーソナリティを務めるのか? その理由は、顧客体験の観点から説明できるという。
アップルストアに見る顧客体験 コンセプトストアとポップアップストアの違い
――なるほど、ポップアップストアを展開する際は「商品知識のある接客」が重要なんですね。その点、コンセプトストアは質の高い接客をしっかりと提供できている印象ですが、そもそもコンセプトストアはポップアップストアと何が違うのでしょうか?
郡司氏: 私の理解としては、ポップアップストアは先ほど申し上げたように期間限定の店舗です。コンセプトストアはブランドのコンセプトを体現した店舗を指します。その代表格に挙げられるのはアップルストアでしょう。小売業の中で売場面積当たりの売上高が1位と言われています。
書籍『アップル 驚異のエクスペリエンス』では、アップルストアの顧客体験について「店内に足を踏み入れた瞬間、自分の存在を認めてもらえる。その結果、体内時計はリセットされ、時間の流れがゆっくりになる」と表現しています。つまり、接客を受けるまでの15分の待ち時間が2〜3分に感じられるような体験の提供を目指しているのです。そして「大切にされたと感じながら顧客に帰ってもらうこと。そして、顧客の人生を豊かにすること」を目的に店舗設計やスタッフ採用・育成をしているそうです。これが、Webではできない究極の顧客体験の提供につながっているのだと思います。
――ちなみに、「究極の顧客体験」を大切にするアップルですが、コンセプトストアだけではなく家電量販店などの販路も見かけることがあります。ここでもアップルならではのポリシーがあるのでしょうか?
郡司氏: アップルの場合は単純に小売の場に商品を流すという考えではなく、チャネルは広げつつも、家電量販店で独自の売り場を作ったり、流通量を減らしたりなどしてうまくブランドをコントロールしている印象です。
――最近、b8taが美容機器からEVまで体験できるポップアップストア「b8ta Pop-up Osaka - Hankyu Umeda」をオープンしたほか、D2Cブランドなどが1日単位で出店できるマルイの「concept shops」や、Yogiboの“渋谷の街”を体現したコンセプトストア「Yogibo Store 渋谷宮下公園前店」など、国内でも顧客体験を追求した新しい店舗が次々に登場しています。郡司さんはどこか来店されましたか?
郡司氏: コーセーの体験型店舗「Maison KOSE」のスキンチェックは興味深かったです。顔を撮影するとシミやシワなど肌の状態が測定され、その診断結果に基づいてビューティーコンサルタントがアドバイスしてくれるのですが、健康診断の結果を基に薬を出してもらうような感じですごく説得力がありました。もちろん、気に入った商品があればそこで購入もできます。
メークをする人たちからファンデーションや口紅、ネイルなどは試した後に落とすのが大変と聞いていたので、バーチャルメークに興味がありました。実際に視察してみると、単に非接触という利点だけではなく、化粧を落とす負担を減らしながら手軽にいろいろと試せる点が顧客ニーズを満たしているのではないでしょうか。
もちろんWebやアプリでも同様のサービスは提供可能です。しかし、機能性の高い機械とプロの接客の組み合わせによって、店舗でしか体験できないという価値向上を実現できていると感じます。
――それは新しい体験価値になりそうですね。実店舗ではさまざまな顧客体験を提供する動きが広がっていますので、今後も注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。
著者紹介:東芝テックCVC note
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