「経営をDXしてほしい。給与は1000万円!」と求人してしまう企業の、致命的な勘違い:データで見る「ちょうど良い求人」(1/5 ページ)
「経営をDXしてほしい。給与は1000万円!」──華やかな求人だと感じるかもしれないが、実は根本的な問題を抱えているという。
多くの企業がデジタルを活用した変革の必要性に迫られる中、DX人材の採用が活発化している。採用競争が起きる中、的を外した求人を掲出し、望ましい結果を出せない企業も後を絶たない。
まずは下記の求人概要を見ていただきたい。「経営に関わる裁量の大きそうな仕事で、年収も1000万円なんて、華やかな求人だなあ」と感じる読者もいるだろうが、実はこの求人、根本的な問題を抱えている。
業務内容
経営ビジョンや中期経営計画を実現すためのDX戦略策定
必要要件
DXに関する幅広い視野と知見、事業変革推進の経験など
オファー年収
1000万円〜1200万円
「大企業にありがちな例ですが、これでは求める人材は採れません」──こう話すのは、転職市場にマッチした採用ターゲットを作成できるサービス「HR forcaster」の責任者である、パーソルキャリア企画開発部の石川悟氏だ。この求人の、何がいけないのか? 石川氏に話を聞いた。
DX人材に求められるものとは
DX人材の求人について詳しく知る前に、DXがもたらす価値について考えるところから始めたい。
DXという言葉自体、バズワードの様相を呈しており、本来の語義以外に使われることもあるが、同社ではDXがもたらす価値を大きく3つの要素に分けて捉えている。ビジネスモデルの変革、ビジネス価値の創出、企業風土の変革の3つだ。
DX人材を採用する場合、「どれか1つだけ満たせば良い」というわけではなく、傾斜はあれど3つの要素を兼ねた人材を求めることになるという。
このうち、ビジネスモデルの変革やビジネス価値創出を担う人材には、ITを知識はさることながら、自社のビジネスへの理解が求められる。企業風土変革を牽(けん)引する人材に期待されるのは、ただ仕組みを変えることだけではなく、仕組みを遂行する人間の考え方も変化させることだ。新しい仕組みを浸透させ、社員の価値観にも変化をもたらすオペレーション能力が必要とされる。
なお、求人サイト「doda」の実際の求人を分析すると、募集している人材が価値をもたらすことを期待されている対象は、大きく「経営」「社内」「顧客」そして価値発揮対象が明確になっていない「総合系」に分類されると石川氏は話す。
求人例(1)全社のDX戦略を策定してほしい。年収は1000万円〜
ここで冒頭の求人例に戻り、いったい何がマズいのか見ていこう。
求人の概要
全社のDX戦略策定担当として、経営ビジョンや中期経営計画を実現するためのDX戦略を策定することがミッションだ。そのための体制整備や、課題解決も求められる。必要要件は「DXに関する幅広い視野と知見」「事業変革推進の経験」「企業文化変革の経験」の3つ。年収は1000万〜2000万円となる。
実はこの要件、実在の大手企業の求人を基に作成したものだが、よく見られるNGポイントがあるという。この求人では人を採れない理由はどこにあるのか。
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