「経営をDXしてほしい。給与は1000万円!」と求人してしまう企業の、致命的な勘違い:データで見る「ちょうど良い求人」(2/5 ページ)
「経営をDXしてほしい。給与は1000万円!」──華やかな求人だと感じるかもしれないが、実は根本的な問題を抱えているという。
石川氏は根本的な原因として、DXを手掛ける人材を募集しておきながら、中身が明確ではないことを挙げる。DXを謳っているが、具体的にどんなビジョンがあり、何に取り組むのか記述がない。
求人例(1)では必要要件として「DXに関する幅広い視野と知見」「企業文化変革の経験」を挙げているが、該当する人はこれらの知見・経験を生かして価値を発揮する場を求めている。このため、具体的な仕事内容やプロジェクトの規模、スケジュール感などの詳細部分こそが訴求ポイントになる。
「ハイレイヤーの人材を募集する時ほど、プロジェクトや仕事内容などを詳しく明確に記載する必要があります」(石川氏)
どんな求人にすれば人が集まる?
では、どのような求人にすれば良いのか。まずは採用市場の状況を理解した上で、市況感、採用難易度、ターゲット妥当性、オファー年収などを現場に伝え、適切なターゲットを再設定することだと石川氏は話す。
コロナ禍以降、採用市場の変化は著しい。「以前は採用できたから、この条件でも採れるはず」と楽観視する現場との調整に苦労する人事も多い。客観的なデータを提示して、納得してもらわなければならない。
今回はHR forcasterを利用して、新たに打ち出す求人を2つ作成した。HR forcasterとは、募集要件の参考や、中途採用のマーケット分析に利用されているツールだ。dodaが蓄積した求人と統計化した候補者に関する計100万件以上の転職データを基に、採用ターゲットをチューニングできる。現場が求める人材と市場感が乖離(かいり)し、人事担当者が「そんな人材、どこにもいないよ……」と苦悩するのは「中途採用あるある」だが、これらのすり合わせや、適切な採用ターゲットを設定するためにも使われる。
なお、「事業変革の推進経験」という要件は、求人によって想定するレベルにばらつきがあるため、2つの軸に応じてそれぞれ再定義した。
その1:事業会社で企画や経営企画の経験がある
1つ目は、企業の内部で戦略立案などの業務経験がある人材を想定した求人だ。元の求人よりは経営企画・事業企画に近いポジションとして募集することになる。条件を満たす人材の平均年収は765万円と、当初想定していた年収よりは低い水準だ。
人材の条件
以下を全て満たす人材
- (1)経験した職種:企画・管理・経営企画・事業企画・営業企画、経験年数:5年以上の人材
- (2)スキル・経験:経営企画・事業企画・IR経営戦略立案の人材
総合評価は星4。そう聞くと比較的滞りなく採用できそうな気がしてしまうが、首都圏エリアでは約2300人しかヒットしないところを、329件の求人で取り合っている状況だ。厳しい戦いであることに変わりはない。
その2:事業戦略を策定 コンサル想定
2つ目は、外部から企業の事業戦略立案に関与してきたコンサルタント会社の出身者だ。コンサル出身者は多様な企業からの引き合いがあり、こちらも難易度は高い。
2つのペルソナを設定したが、企業が訴求すべき内容はそれぞれ異なるという。石川氏は両者に対する訴求内容について、本質的には各個人によって異なると断った上でこう話す。
「事業会社の経営企画・事業企画出身者は、企業規模が大きくなることに魅力を感じる傾向があります。一方でコンサル出身者は、プロジェクトベースで携わるだけではなく、企業内部で関わりたいと考えている場合や、激務だから残業を抑えたいと考えていることもあります。このように、ターゲットが明確になると、訴求内容が変わってきます」
市場感との乖離を埋めるために
実際の採用では、市場を理解してターゲットを再設定する他、下記のような取り組みも有効だ。これらを繰り返すことで、現場の希望と市場感の乖離を埋めていく。
- 自社採用KPIから見る課題点の抽出……他のポジションと比較する
- 競合他社とのターゲットの差異・強みの把握……人材会社などから情報を収集する
- 競合他社との選考フローや決定数の差異……人材会社などから情報を収集する
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