新型クラウンはなぜ大胆に変わったのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
新型クラウンの期待が高まっている。国産車のネームバリューとしてはトップグループだろうが、セダンは“オワコン”の扱われている。そうした中で、クラウンはなぜ変わったのか。
価格が高すぎた
聞くところによると、開発途中まではもっと大胆な変更を前提に進んでいたらしいが、守旧派の反対で頓挫(とんざ)し、デザインがリテイクされ、あの落ち着きどころになったという。改革には常に賛成派と反対派がいる。改革派が常に善で守旧派が常に悪なら話は簡単なのだが、世の中そんなに簡単ではない。オリバー・クロムウェルやマクシミリアン・ロベスピエール、あるいは織田信長を思い起こせば、改革派すなわち善とばかり言えない。何百年も経て、なお評価は割れている。
ただ15代目クラウンの改革に際しては、もっと大胆に進めてもよかったのではないか。攻めた結果の失敗には得るものがあるが、保守的に進めて敗退しては得るものがない。守旧的にいくなら負けないことは絶対だ。少なくとも今の時点で結果を見ると、モデルサイクルを全うせずに退役した事実に照らせば、それはハッキリしているように思う。
もう一点、さすがに価格が高すぎた。環境と安全規制が年を追うごとに厳しくなる以上、ある程度仕方がない。正直筆者も、どこまでが許容すべきでどこからがやりすぎなのかを掌(たなごころ)を指すようには指摘できないのだが、少なくとも結果を振り返れば、値付けに問題があったとみるべきだろう。
こうした経緯から、新型クラウンは、セダンの新しいあり方を提案するモデルであり、グローバルモデルと位置付けられ、振り切って革新的なスタイリングと押さえた価格で構成されるモデルとなった。(後編)
(会場の画像、撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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