名ばかりの「ジョブ型」「同一労働同一賃金」……国の施策が実効性を伴わないワケ:目標だけ独り歩き(1/4 ページ)
政府の「働き方改革」に関するさまざまな施策。「ジョブ型雇用」「同一労働同一賃金」「産後パパ育休」――。いずれも重要な施策だが、実効性が伴わず“看板倒れ”と言わざるを得ないものも少なくない。実効性が伴わない根本的な原因はどこにあるのか。
2018年に働き方改革関連法が可決成立して以降、政府は、雇用労働に関するさまざまな施策を積極的に進めています。
それぞれの施策には目標が掲げられています。目標は「施策を推進する法律を制定する」や「○○円の予算を投じる」など、分かりやすい言葉で具体的に示され、達成率などの数字で示される場合もあります。施策がお題目で終わってしまわないよう、具体的な目標を掲げることは必要なことです。
しかしながら、目標が具体的で分かりやすいことが返って仇(あだ)になり、実効性が伴わないまま、目標だけが独り歩きしてしまっていると感じることがあります。
岸田首相は、9月22日に米国のニューヨーク証券取引所で行ったスピーチにおいて、これから日本が取り組む5つの優先課題を紹介しました。その第1番目に挙げられたのが「人への投資」で、まずは労働市場の改革を行うとしています。
「日本の経済界とも協力し、メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」
メンバーシップ型からジョブ型へ移行させるという方針について、各メディアも一斉に報じました。それにより、労働移動を円滑化するなど目指すべき姿も示しています。これらは新時代の労働市場のあり方をイメージさせるものだと思います。
しかし問題なのは、メンバーシップ型からジョブ型へ移行させることに焦点が当たってしまっている点です。そこには大きく2つ問題があります。
中身が見えない首相の目指す「ジョブ型」
1つは、ジョブ型とは何かが不明確な点です。いま、すでに多くの会社がジョブ型雇用を取り入れていると耳にします。しかし、ジョブ型雇用とは、本来欧米型の人事制度を意味するものであり、職(ジョブ)に縛られた雇用契約を結ぶ文字通りの「就職型」です。
“職”に就いているわけですから、もしその職がなくなったり、その職を遂行できる技能が不足している場合は解雇の対象になりえます。逆にその職が存続し、遂行できる技能も有しているのであれば、会社の都合で勝手に配置転換などはできません。
しかし、いまの日本の法制度はメンバーシップ型を前提に整備されています。メンバーシップ型雇用とは職に縛られたものではなく、会社の一員(メンバーシップ)になることを条件に雇用契約を結ぶ「就社型」です。
そのため、いま就いている職がなくなったり、その職を遂行する技能が不足していたとしても、社員は“会社”に就いているわけですから、解雇の対象となるわけではありません。会社側には、配置転換などして解雇を回避する努力が求められます。逆に、もしその職を十分遂行できていたとしても、会社が必要だと考えれば、人事権を行使して配置転換させることも可能です。
関連記事
- “とりあえず出社”求める愚 「テレワーク環境」を整えない会社に未来はないと思うワケ
コロナ禍で高まったテレワーク推進機運は、経団連の見直し提言もあり、実施率が下がっている。テレワーク環境が整っていなければ、ワークライフバランス環境で見劣りし、他社の後塵を拝することにもつながる。 - 偉ぶる「若手管理職」を生み出さないために 「脱・年功序列」成功のカギは?
NTTをはじめ、20代でも管理職起用の道を開く企業が増えている。しかし、単に制度を導入するだけでは年少者に年長メンバーが反発するなど軋轢も生じうまくいかない。「脱・年功序列」を成功するために企業が注意すべきことは何か。 - 30年横ばい……日本人の給与アップ阻む「労使間の格差」 収入増へ個人ができる5つの方法とは?
日本人の給与は30年ほぼ横ばい。賃金アップが実現しない背景に、従来の賃上げ交渉の限界や「労使間の格差」を筆者は指摘する。格差を克服するためには、働き手の「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」を磨くことが必要になる。「労使対立」から「労使互恵」へと転換する新時代の労使の姿を考える。 - 氷河期支援、正規30万人増めざす→実績は3万人 国の施策が機能しない根本的な矛盾とは?
政府が直近3年間で就職氷河期世代の正社員を30万人増やす目標を掲げていたが、実績はわずか3万人に留まる。政府の施策のどこに問題があるのか。 - 社員に「空気読ませる」のはNG テレワーク時代に求められるマネジメントとは?
コロナ禍に伴うテレワークの定着で、チームマネジメントの在り方に変化が求められている。社員が成果を発揮するために必要なマネジメントの3つのポイントとは――。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.