名ばかりの「ジョブ型」「同一労働同一賃金」……国の施策が実効性を伴わないワケ:目標だけ独り歩き(2/4 ページ)
政府の「働き方改革」に関するさまざまな施策。「ジョブ型雇用」「同一労働同一賃金」「産後パパ育休」――。いずれも重要な施策だが、実効性が伴わず“看板倒れ”と言わざるを得ないものも少なくない。実効性が伴わない根本的な原因はどこにあるのか。
以上を踏まえると、メンバーシップ型からジョブ型への移行というのは日本の雇用制度を就社型から就職型へと変え、そのための法整備も行うことを意味することになります。もしそこまで踏み込んだ改革を行うとなれば、とても大がかりな転換です。
ところが、いま巷(ちまた)でジョブ型雇用と呼ばれている制度は、実質的にメンバーシップ型のまま職務記述書などを整備して、いま就いている職務内容を細かく明記して限定的にしているだけに見えます。
それであれば「職務限定正社員」の言い換えに過ぎません。中には、本来のジョブ型の意味合いで就職型の制度を導入しているケースもあるかもしれませんが、その場合は配置転換や転居を伴う転勤を命令するような人事権を放棄することになります。岸田首相がスピーチで言及したジョブ型とは、本来のジョブ型なのか、職務限定正社員の言い換えに過ぎないのか、あるいは別の何かを指すのかが不明確です。
看板かけ変えただけで中身は変わらず
もう1つの問題は、職務限定正社員の言い換えなど、本来とは異なる意味でのジョブ型であればすでに導入している会社は多数存在しているにもかかわらず、“ジョブ型”と名称だけ付け替えることで、メンバーシップ型ではなくなるかのような錯覚が起きてしまうことです。
仮に、就業条件明示書に加えて職務の詳細を記載した職務記述書の作成も法律で義務づけたとしても、メンバーシップ型からジョブ型に変わるわけではありません。法律を変えなくても、すでに自主的に職務記述書を作成している会社は存在します。
もし職務記述書の作成が義務づけられたとしたら、担当職務が明確になるため、社員は仕事がコントロールしやすくなる利点があります。会社としても、給与を上げ下げする時の根拠を伝えやすくなるかもしれません。
しかし、その利点はメンバーシップ型のままであっても同じことです。それだけで労働移動が円滑化するわけでもありません。目指す姿を実現させるには、もっと踏み込んだ改革が必要となります。最大の課題は、会社が採用を逡巡する根本的な原因となっている解雇ルールをどう整備するかです。
かつて職務限定正社員を推進しようとしていたころは、その職務がなくなった時などの解雇をどうするかという最もシビアな議論が進まないまま、いつの間にか話題に上らなくなってしまいました。そこがハッキリしないと、会社としては職務限定で採用したはずが、他の職務に回して雇用を維持しなければなりません。それでは、職務無限定である従来の正社員と同じです。
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