「社員を束縛」してきた日本企業 少子化時代のあるべき採用の形とは?:内定辞退者を中途採用(2/4 ページ)
三井住友海上は2024年度入社の新卒採用から、内定受諾の辞退者に中途採用の優遇枠を用意する取り組みを始める。大手企業が採用対象者の間口を広げようとする背景には、人手不足や少子化など、抗いようのない環境変化の影響がある。
一方、10年後に当たる2010年生まれの数は107万1310人で係数にすると0.90。10年後の新卒層の母数は、1割も目減りしてしまいます。そして、今年の新卒層から見て20年後に当たる2020年の出生数は84万840人。係数にすると0.71となり、ほぼ3割も減少してしまうのです。これは20年後の新卒採用市場に確実に訪れる、未来の姿だと言えます。
3つ目の環境変化は、個々の志向性が多様化していることです。かつては、一流大学を出て大手企業に入社し、定年まで勤め上げるという典型的な「勝ち組モデル」がありました。しかし、いまや大手企業に勤めれば将来も安泰という神話は崩れつつあります。安定性の象徴とも言える国家公務員でさえ応募者減少に頭を悩ませている時代です。働き手の価値観は生涯一社主義から変化し、外に新たなチャンスが見つかれば、いとわず転職するようにもなってきています。
大企業に「希望殺到」の時代は終わりつつある
それでも、ネームバリューがあり職場環境も整った大手企業のブランド人気はすぐにはなくならないと思いますが、リクルートワークス研究所が行った調査では、逆に居心地の良い大手企業の“ゆるさ”が、別の会社で通用しなくなってしまう不安を強めている可能性が指摘されています。
成長機会を求め、ベンチャー企業で早いうちから権限を得て新規事業やマネジメントなどの経験を積んだり、会社勤めを選ばず起業したりと、既定路線にとらわれず独自の道を進もうとする人がこれからますます増えていくかもしれません。
つまり、大手企業であれば黙っていても入社希望者が殺到するような時代ではなくなりつつあるということです。
これら3つの環境変化は、新卒層に限らず、すでに社会に出て仕事をしているあらゆる働き手にも影響を及ぼしています。当然ながら、会社は中途採用層の人材獲得においても間口を広げる取り組みを進めることになります。その一つが、一度退職した社員を組織化して関係性を保ち、いざとなれば再入社できるルートを確保する「アルムナイ制度」です。
ほかにも、仕事と家庭の両立を図りつつキャリアアップもできる環境を希望する主婦層を時短正社員として戦力化したり、シニア層や外国人に活躍の場を提供したりと優秀な人材を幅広く獲得しようとする動きがあらゆる会社に見られます。コロナ禍を機に活発化した出向者の受け入れや、副業の促進なども新しい人材獲得手法として定着しつつあります。
これらの動きは、人材難に直面している会社側にとってはもちろん、社員にも選択肢を増やし、会社と社員双方の満足度を高めるWin-Win(ウィンウィン)を実現する可能性を秘めています。
ただ、会社側が採用の間口を広げようとする動きは、無条件に「すばらしい」と歓迎できるものばかりかというと、そうとは限りません。注意しなければならないのは、間口を広げるという特典が、会社側と働く側の間に好ましくない作用を働かせてしまうことです。
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