残念ながら、「インバウンド需要は急回復する」と考えるのが危険な理由:入国者数の制限が撤廃(2/4 ページ)
日本では、1日当たりの入国者数制限を10月11日より撤廃した。インバウンド需要の回復を期待する声も大きい。しかし、特需に頼るのは危険だと筆者は主張する。
インバウンド需要は元に戻るのか?
もし日本が先ほどの2カ国と同じ伸長率であった場合はどうでしょうか。次の表にある赤点線のような推移となり、五輪開催年でも1056万人、開催2年後でも1084万人にしかならなかったはずです。しかし実際には、開催決定年ですでに1036万人、開催1年前で3188万人という驚異的数字を達成しています。もし五輪が日本で開催されていなかった場合、年間インバウンド数(訪日外客数)は1000万人前後であったことでしょう。
次に、五輪開催決定前の12年、五輪開催は決定していたコロナ発生前の19年の数値、そして今年の実績数値を比較してみましょう。
22年9月時点で19年対比マイナス90.8%、12年対比マイナス68.6%であり、コロナ前水準からはほど遠いといわざるを得ません。
そして10月11日より1日当たり入国者数制限が撤廃されました。では、10月よりインバウンドは飛躍的に増えるかというと残念ながらそうならないと予想されます。
上限が撤廃される前から、上限数には全く達していない実績がそれを物語っています。
21年12月〜22年9月までの入国者制限数に対する平均入国率は28.4%です。直近の9月においては上限数5万人に引き上げられたものの、入国率は13.8%にとどまっています。
つまり、日本側の入国制限の多寡ではなく、相手側の国の規制やコロナに対する警戒意識、国内感染状況によるところが大きいと予想されます。
19年時点で日本への観光客が多く、全体の約7割を占めていた上位である中国(959万人)、韓国(558万人)、台湾(489万人)、香港(229万人)、米国(172万人)の規制状況を見てみましょう。
中国は政府が海外渡航自粛を指示しているため、日本への渡航は難しい状況でした。しかし、10月22日に終了した共産党大会後の動向によっては、国内のゼロコロナ政策と海外への渡航自粛が緩和されるかもしれません。そうした場合、状況は大きく好転することになります。
中国人の海外旅行者はパッケージツアーではなく個人旅行の比率が高いため、日本側の規制において個人旅行を緩和したことも好材料として今後作用するかもしれません。
韓国においては渡航制限がないとはいえ、9月時点の1日当たり新規感染者数が3万人前後と高い状況が続いています。韓国、台湾、香港では9月26日から、香港への入境者に義務付けていた指定免疫ホテルでの強制隔離措置を撤廃しました。しかし、台湾の1日当たり新規感染者数は3.9万人(10月15日〜22日平均)、香港は5400人ほどと人口に対する新規感染者数は依然高い傾向にあります。
コロナ前水準に戻ってほしいと誰しもが願う中ではありますが、現状の数字を見る限りは、コロナ前の水準には戻らないといわざるを得ません。その要因としては、五輪効果が減退していく点、日本が海外旅行先として魅力的な価値を持っているとはいえ各国の規制や感染状況によってブレーキ要素が依然として存在している点、日本が設定していた上限数にはもとから達していないので上限撤廃が世界の渡航者へ及ぼす好影響は軽微であると予想される点が挙げられます。
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