金融所得課税率を上げるなら、配当だけを対象にすべし:さもしいバラマキ根性(1/3 ページ)
「1億円の壁」に対する不公平感をベースに、再び金融所得への課税強化の議論が高まっている。まずは人気取りのためのバラマキを止めることが何より先決であるが、財政再建のために本当に必要なら聖域扱いすべきでもない。とはいえ……。
日沖博道氏のプロフィール:
パスファインダーズ社長。30年にわたる戦略・業務コンサルティングの経験と実績を基に、新規事業・新市場進出を中心とした戦略策定と、「空回りしない」業務改革を支援。日本ユニシス、アーサー・D・リトル等出身。一橋大学経済学部、テキサス大学オースティン校経営大学院卒。
「1億円の壁」をご存じだろうか。税の負担率は所得1億円辺りがピークとなっており、それ以上の所得者は却って税率が下がる傾向がある。これがいわゆる「1億円の壁」現象だ。日本の税制が「金持ち優遇」だと批判される所以(ゆえん)の一つでもある。
なぜこんな現象が起きるのか。有力な仮説が、「富裕層というものは金融資産から来る所得、具体的には株式の配当や譲渡(キャピタルゲイン)が多いのだが、(給与所得が最大55%なのに対し)金融所得への課税は一律20%で固定されているから」というものだ。
こうした税制はアンフェアだという指摘は随分前からある。しかしそれが一時期急速に盛り上がったのが、岸田首相が就任時に、「分配政策」の一環として金融所得への課税強化方針を打ち出した1年前だ。
しかし当時、金融界からの猛反発と日本市場での売り浴びせを受け、岸田内閣は結局この方針を先送りし、政治的アジェンダからは一旦立ち消えたように見えた。
実際のところ、金融所得への課税強化は、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げてきた政府・自民党の長期方針とは明らかに反するし、少額投資非課税制度(NISA)や個人型確定拠出年金(iDeCo)などの促進を進めようとしている直近の政策方向とも真逆だ。
しかし最近のコロナ禍対策や物価高対策で見る政府・自民党のバラマキ体質はいよいよ国の財政規律を弱め、しかも国防費のGDP比2%枠突破も現実化している。いくら企業業績が回復基調にある(つまり法人税は多少上乗せできる)とはいえ、日本政府はどこかで新たに大きな追加財源を探す必要に駆られているのが実情だ。
その際、物価高に苦しむ庶民や業績の振るわない中小企業から、さらに税金を取り立てるオプションはない。激しい国際競争の中で食い扶持を稼いでくれる大企業から取り立てようとすると、彼らからは「海外逃避してもいいんだぜ」と脅される。
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