男性育休の“社内第1号” いつから・どれくらい取得がふさわしい? 「正直迷惑」の声にめげず、準備すべきこと:連載「情報戦を制す人事」(4/4 ページ)
社内で初めての男性の育休取得希望者に対応することになったとき、人事はどうすれば良いのでしょうか。「正直迷惑」「人がいないのに」の声にめげず、男性育休をスタンダードな選択肢の一つとして浸透させるためにできることを紹介します。
【1例目だからこそケアしたい注意点 収入などの誤解にどう対応?】
社内の1例目となると、本人にとってまず壁になるのは情報収集がしづらい点です。特に収入や、取得期間中の過ごし方に関しては誤解も多く、人事がフォローする必要があります。
本人も周囲も誤解しがちなのは収入の問題と「休んで何をするのか」
特に誤解されがちなのが、収入の問題と「休んで何をするのか」です。本人のみならず上司や同僚に誤解があると育休取得そのものや復帰の妨げになるため、環境整備の意味でも特に取得希望者の所属部署には改めて説明をすると良いでしょう。
- 収入:育休中に給与を支給している企業はほとんどなく、育休期間中はノーワークノーペイの原則により無給です。その代わり、社会保険から7割程度の給付金が支給されます。
- 休んで何をするのか:東京都が育休に代わる愛称を募集し『育業』と決められたように、ただ家でのんびり過ごすわけではありません。また、前述の通り産後1カ月間は特に産後うつのリスクが高いことや、産後の母体は歩行が安定しないことから買い物などがしづらくなります。このような妻の状況をカバーしつつ、新しい家族の生活を築き上げていくのが育休期間です。
「お手伝い」「サポート」ではいけないが、責任感を持ちすぎると辛いことも
育児は子どもに関わる時間だけではなく、食事や洗濯などさまざまな家事も含めた「子どものいる家族生活のマネジメント」です。
しかし、育児や生活にかかわる全てに責任感を持って担おうとすると、無理が生じる方も多いでしょう。金銭的な負担はかかるものの「子育て3種の神器」と言われている、食器洗い乾燥機や乾燥機付きドラム式洗濯機、調理家電などの用意や出産直後に利用できる支援(※1)をあらかじめ知っておくことも大切です。
既に社内で子どものいる従業員に相談できていると知識が得られますが、そのような交流が少ないのであれば(あくまでも軽い配慮として)育休取得手続きと一緒に案内する手段もあります。また、福利厚生サービスを外部企業と提携して従業員に提供しているのであれば、探してみるようにすすめても良いでしょう。
(※1)自治体の補助で安価に利用しやすいのが「ファミリーサポート」です。買い物や大人用の作り置き料理のために利用されることが多いサービスです。
また高額になりますが「産後ケア事業」「産後ケアセンター」と呼ばれるサービスもあり、助産師のアドバイスが受けられるほか、宿泊する場合には夜間のミルク等のお世話を依頼してその間まとまった睡眠が取れることもできます。なお、自治体によって、住民のみ無料であったり産後何カ月以内の限定利用であったり、さまざまな制限がありますので注意が必要です。
父親が孤独で悩みを抱えないように
特に第一子の場合に該当しますが、夫婦とも言葉の通じない子どもと配偶者のみの環境は非常につらく、産後うつにつながります。そこで父親は父親で誰かに話せる機会があれば良いのですが、1例目なので社内に頼る人がいない可能性があることや、周囲に父親である友人がいない場合もあります(いてもあまりも育児をしていない場合も)。
そのような時は、Papa To Childrenのような父親同士で話せるコミュニティーを活用できると、産後うつなどのリスクを減らせるかもしれません。こうした情報も育休取得前に会社側から提供できるとベストです。
男性育休への取り組みを、業務改善やシステム投資を進めるきっかけに
22年は4月、10月と育児・介護休業法の法施行が2回あり、その内容把握や対応方法の検討で手一杯という人事の方も多かったのではないでしょうか。実際に全体周知や個別周知を進めた結果、男性育休の取得希望者が出てきた際、人事として従業員の育児や産後の配偶者のことまで配慮した案内ができるように、無料または安価で利用できるサービスを例として記載しました。
男性育休を推進しても、現場の上長や同僚は人手不足の状況下で欠員が出ることをよく思わず、「法定だから仕方ない」「できれば取得してほしくない」という空気になるかもしれません。しかし、介護や感染症、事故など育休以外の理由でも欠員は起こりえます。男性育休について考えることを、業務改善やシステム投資を進めるきっかけにして、より働きやすい職場にしていただければと思います。
経営者の中には、昨今話題のウェルビーイング経営を進める上で「社員の人生の充実度を上げるのに、会社がどこまで関われば良いのか」と悩む方もいらっしゃると思います。経営戦略の一環として男性育休を推進し、従業員が家庭の充実を得て仕事でもパフォーマンスが出せる──そんな理想的な在り方に近づくために、本記事が参考になれば幸いです。
著者プロフィール
眞柴 亮 株式会社Works Human Intelligence WHI総研
2006年、Works Human Intelligenceの前身である株式会社ワークスアプリケーションズに入社後、通勤手当や寮社宅等福利厚生を専門に、大手法人の制度コンサルおよびシステム導入を担当。
2019年、2020年と子会社の人事給与BPOベンダーである株式会社ワークスビジネスサービスに出向。受託業務の効率化や品質改善に携わるほか、複数顧客に対し人事関連業務のBPRを実施。
出向復帰後は顧客教育部門であるWorks Business Collegeを経て現職。「社員定着率」「生産性向上」を2大テーマに、付随する人事テーマを含めて研究・発信活動を行っている。
株式会社Works Human Intelligence
大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1,200法人グループへの導入実績を持つ。
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