「心理的安全性」が高い大企業で、若手の早期離職が加速する皮肉 足りないのは何?:若手のキャリア形成に課題(1/4 ページ)
昨今の日本の若手のキャリア形成にはある大きな謎がある。若手の労働時間や年次有給休暇の取得率などが明らかに好転している一方で、若手の離職率が下がっていないことだ。「心理的安全性が高く働きやすい」大企業を退職する若手が増えるのはなぜか?
若手育成の難易度が上がっていると感じることはないだろうか。筆者は大企業の管理職研修などに呼ばれた際、「現場での若手の育成や指導についてどの程度課題を感じますか?」という質問を現場のマネージャーの皆さんに投げかけている。
ある会社では、100人を超える参加者の中で96.5%のマネージャーが「強い課題を感じている」「やや課題を感じている」と回答した。「あまり課題を感じていない」「課題を感じていない」マネージャーは実に全体の3.5%に過ぎなかった。
現場マネージャーの96.5%が現在の若手育成に課題を感じている――「何か大きなボタンの掛け違えがあるのではないか」と、筆者は考えている。そもそも、昨今の日本の若手のキャリア形成にはある大きな謎がある。若手の労働時間や年次有給休暇の取得率などが明らかに好転している一方で、若手の離職率が下がっていないことだ。
近年、日本の企業、特に大企業は若手社員の定着を促進すべく、程度の違いはあれ、労働時間や過剰なストレスをかけないよう手を打ってきた。週当たりの労働時間を例に見てみよう。2016年の調査によると、大企業(従業員数1000人以上)の新入社員(大学卒以上24歳以下)においては44.5時間だったが、19年は43.5時間、20年は42.4時間と減少傾向が続いている。労働時間の縮減に伴い、仕事の量自体にもセーブがかけられているといった推測もできる。2010年代後半以降に起こった、働き方改革関連法などによる大規模な労働法令改正がこうした動きを促した。
もちろん、この変化は歓迎すべきことだ。「若者を使いつぶすような企業を許さない」――そんな価値観が社会のルールを変えた。ただ、大企業の早期離職率は微増傾向が続いている。厚生労働省の発表によると、大学卒新規入職者における3年未満離職率は、直近の10年間で増減を繰り返しながらも09年卒の20.5%から19年卒の25.3%へと増加傾向にある。
この現象はとても不思議なことだ。なぜなら、これまで多くの働き方に関する調査が「労働時間や労働負荷の高まりと離職率は比例する」という傾向を示してきたからである。この当たり前の関係が、近年の日本の大企業では成立しなくなってきているのだ。
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