【解説】中国発ファッションEC「SHEIN」は、何がすごいのか:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/3 ページ)
中国発ファッションEC「SHEIN」(シーイン)が注目を集めている。推定時価総額は、ZaraとH&Mの合計時価総額を上回るとも報じられている。突如として頭角を現したこの企業は、他のファッションブランドやECと何が違うのか。その強みやテクノロジーの背景に迫る。
激安価格の背景は……
SHEINの価格の背景には「世界の工場」と呼ばれる中国だからこそできる巨大なサプライヤーネットワークの構築と、アルゴリズムを活用した小ロットの生産管理体制があります。
SHEINは、中国南部の広東省の広州にサプライチェーンを構築し、現在では3000社以上のメーカーを含むサプライヤーネットワークを構築しているといいます。
そこで、各アイテムを工場に100〜200着だけ発注する仕組みを導入しています。発注を受けた工場では、全ての服の生産をリアルタイムで追跡できる独自のソフトウェアを使用しており、売り上げや閲覧行動などのデータを取り入れたアルゴリズムを使って顧客の好みや需要をフィードバックします。
特定の商品への関心が高まれば、その場で生産量を増やすというフレキシブルな生産管理方法を導入しているのです。
SHEINのCMO、Molly Miao氏によると、この生産管理方法を取り入れた結果、SHEINの販売率は98%を記録しているということです。販売率(=セルスルー率)とは、一定期間、例えば月単位などにメーカーから受け取った在庫の量に対して、販売された在庫の総量が占める割合をいいます。
つまり、SHEINでは100商品のうち98商品は売れており「売れていない商品はほとんどない」という状態になっています。
ほとんどの商品が売れているということは、すなわち、売れない商品を瞬時に見定めてサイト上から消していく、確実に売れる商品だけを生産しサイトで販売していく、ということです。
Miao氏によると、実際、サイト上で売れていない商品はすぐに削除されることが多いといいます。そのため、無理やり人気のない商品を売り切るためのセールを実施したり、顧客獲得コストを割いたりする必要がなくなり、余剰在庫が減るようになります。
他の追随を許さない「販売率98%」
SHEINの高い販売率について専門家は、「販売率はサプライチェーンの効率性を測る重要な指標であり、製品価格の差別化要因になる」と述べています。同社が激安価格で商品を提供できる背景には、サプライチェーン効率化の実現により、在庫をかかえずに小ロット生産が可能となったことや、リアルタイムでサイトからのデータをフィードバックしながら人気商品を未定め、柔軟に生産量を増減できる体制にあると言えます。
他紙の連載記事でも紹介したのですが、現在米国では、多くのアパレルメーカーが余剰在庫を抱えていることが問題になっています。
例えばNIKEでは、エアジョーダンなどのブランドスニーカーに対する消費者からの強い需要に後押しされ、多くの小売店が発注をしていたものの、世界情勢の影響を受けたサプライチェーンの問題により納期が予測できなくなり、結果的に輸送中の在庫が1.85倍にも膨れ上がり、直近の四半期の在庫が44%増の97億ドル(およそ1兆4000億円)に達してしまったことが株価に大きな影響を及ぼしました。
このように、さまざまな外的要因が余剰在庫を生み出し、メーカーが苦労している中で、販売率98%を維持しているSHEINのもつサプライチェーンの効率性やデータ活用の仕組みづくりは大きな差別化要因になっていると考察できます。
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