無印のチャレンジは開花するか? ダイソー・ニトリ・3COINSとの熾烈な戦い:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
これまで「大都市圏」に出店していた無印良品が、戦略を変えた。11月17日にオープンした関東最大級の板橋南町22店は、住宅地のスーパーの隣地に位置する。無印が今、生活圏立地の店舗にチャレンジするのはなぜなのか。背景を探ると、ダイソー・ニトリ・3COINSなどの生活雑貨ブランドとの熾烈な戦いの構図が見えてくる。
売り場面積の拡大に限界
図表2は、店舗当たりの売場面積と、売場面積(平方メートル)当たりの売り上げの推移を示している。近年、無印では店舗の売場面積を大きくする動きがあり、平均値が17年732平方メートル→22年1055平方メートルと4割以上も拡大した。
しかし、コロナの影響もあるが20年より売り場面積当たりの売り上げが下降してきており、売場面積の拡大による増収という手法も踊り場に入ったことが分かる。
出店余地の飽和を売場面積の拡張ではカバーできないことが分かった無印としては、新たな立地の開発に踏み切るしかなかった、ということなのであろう。
無印のチャレンジは開花するか? 生活圏立地の難しさ
しかし、これまで広域商圏で世界観を共有する顧客層に向けて売ってきた無印が、生活圏立地で生きていくというのは簡単ではない。
板橋南町22店を例に少し考えてみたい。まず、この店の設定商圏は半径5キロメートル以内に居住する150万人(主に板橋区、練馬区、豊島区といったエリア)ということで、中でもクルマでの来店者を想定しているとのことである。
これに関して若干余計なお世話で申し上げるなら、生活圏における日々の買い物の商圏はそんなに大きくはない。
例えば、板橋区(人口56.9万人、32.1万世帯、世帯当たり1.77人)のおよそ70%、練馬区(人口73.8万人、35.8万世帯、世帯当たり2.0人)でも55%の居住者がクルマを持っていないので、板橋区の商圏人口は、32.1万×0.3×1.77=17万人、練馬区では、35.8万×0.45×2.0=32万人ということになる。
クルマを持っていない人が遠くまで日々の買い物に訪れることは難しく、クルマ保有世帯に属する49万人ぐらいの広域商圏と考えるべきでありであろう。ちなみに豊島区民に関しては、大繁華街である池袋を超えてまで板橋方面に日常の買い物をしに来店する人はあまりないと考えるべきであろう。
実際に隣接するマルエツ板橋南町店の設定商圏は、半径700メートル以内で居住者約4万人であると公表されている(図表3)。都内区部での平日の買い物手段が、基本的には徒歩、自転車中心であることを考えると、実際には無印の板橋南町の普段使いもこの4万人を中心商圏人口とすべきであろう。
周辺の45万人(49万人−4万人)に関してはクルマでの移動を伴うため、土日中心の来店とならざるを得ない上に、保有していても実際にはクルマを使って買い物をしてはいない。
国土交通省の実施する東京圏パーソントリップ(2021年、図表4)によれば、東京区部の住民で買い物にクルマを使う人は、かなり遠くに行く場合でも2割程度しかいないことが分かっている。
周辺の46万人×2割=9.2万人が土日に時々来る、ということになりそうだ。こうして見ると、無印板橋南町の日常使いへの挑戦は、かなりハードルが高そうなのであるが、そんなことは、会社は百も承知だろう。国内事業の持続的成長に向けた立地開発のため、無理筋にあえて、前向きに挑戦していると解釈すべきなのだろう。
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