クビは4種類ある──ツイッター社の大量解雇から学ぶ、日本の「クビ論」:働き方の「今」を知る(6/7 ページ)
ツイッター社が社員を大量解雇していると報じられた。外資系企業とはいえ、「解雇規制が厳しい」と言われる日本でいわゆる「クビ」を言い渡すことは法的に問題ないのか? そもそも「クビ」とは何か? 解雇を巡るさまざまな疑問を、ブラック企業アナリストの新田龍氏が解説する。
「日本の解雇規制は厳しい」の誤解と、解雇をめぐる不公平さ
映画やマンガでは、ヘマをした部下に対して上司や経営者が「お前はクビだ!」などと宣告する場面をよく見かける。しかし、これができるのはあくまでフィクションの世界や、日本とは法律が異なる海外の話。わが国ではそう簡単に、従業員のクビを切ることはできない。労働基準法をはじめとした法律によって、労働者の雇用は手厚く守られているからだ。しかし、少し法律に詳しい方であればこう思われるかもしれない。
「民法には『期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申し入れをすることができる』と書いてあるじゃないか。退職も解雇も自由ってことだろう?」
「その労働基準法に、『30日前に予告するか、解雇予告手当を払えば、従業員はいつでも解雇できる』と書いてあるぞ!」
確かに法律上はそうなっているので、「お金を払えば自由に解雇できる」とお考えの方も一定割合おられるだろう。しかし、わが国には法律とは別にもう一つのルールが存在するのだ。それが「判例」、すなわち「裁判で解雇が無効だと判断された事例」である。これまで解雇にまつわる裁判が数多行われ、個々のケースについて有効か無効かが判断されてきたという「歴史の積み重ね」があり、それらの判例が法理として現行の「労働契約法」による解雇の規定となっている。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、無効とする。
ちなみに、「日本は世界的にみて解雇規制が厳しい」と言われることがあるが、OECD諸国で比べた場合、日本は解雇規制が弱い方から10番目。アメリカより厳しく、欧州より弱い、という位置付けだ。しかしこれもまた「あくまで法律上では」という話であり、実際は過去の判例とこの労働契約法により、解雇に合理的理由がなければ解雇は無効となる。この「解雇が合法的に成立するための要件」は極めて厳しく、実質的に解雇が有効になるケースはごくまれであるのが現状なのだ。
従って、「日本は解雇規制が厳しい」というのは、「解雇を規制する法律がガチガチに固められていて、解雇したら即ペナルティが課せられる」といった意味ではなく、「解雇自体はできるが、もしそれが裁判になった場合、解雇無効と判断されるケースが多いため、実質的には解雇が困難」という表現がより実態を正確に表していると言えるだろう。
この構図は、「日本の伝統的な大企業において、解雇は相当困難なように思えるが、なぜか外資系企業や中小企業では普通にバンバン解雇が行われている。ダブルスタンダードなのでは?」という素朴な疑問の回答にもなろう。
理由はシンプルで、伝統的な大企業の場合は世間や株主、メディアなどによる監視が厳しく、解雇によるレピュテーション(評判)低下などイメージ悪化リスクが大きいこと、訴訟になった際に比較的多額の解決金獲得が見込めるので、弁護士も被害者を積極的に支援し、結果的にダメージが大きくなるため、そこまでのリスクを負ってまで解雇に踏み切らない、といった可能性が考えられる。
一方で外資系企業の場合、「クビ」に見えても実際は「退職勧奨」が中心であること、従業員側も解雇リスクは想定した上で入社しており、裁判で余計なお金と時間とエネルギーを費やすよりも、好条件を提示されているうちにサッサと自主退職して次の会社に移ることが一般的であるため、そもそも訴訟にまで至らない、というケースが多い。
中小企業の場合はまた事情が異なり、そもそも大株主も法務も人事も実質的に経営者が兼ねていることが多く、チェック機能が働かないまま「社長がクビといったらクビ」になる。また中小企業の労務トラブルには大企業ほどのニュース価値はないため、解雇したところでメディア報道されることもなく、レピュテーション低下リスクもない。また仮に裁判で勝っても大企業ほどの解決金獲得は期待できないため、同程度の労力がかかるなら、弁護士も中小企業の解雇被害者支援への腰は重くなりがちだ。
このように、多くの外資系企業や中小企業の場合、解雇したところで訴訟にまで至ることが少ないため、「解雇してそのまま終わり」のように見えてしまうわけだ。
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