クビは4種類ある──ツイッター社の大量解雇から学ぶ、日本の「クビ論」:働き方の「今」を知る(7/7 ページ)
ツイッター社が社員を大量解雇していると報じられた。外資系企業とはいえ、「解雇規制が厳しい」と言われる日本でいわゆる「クビ」を言い渡すことは法的に問題ないのか? そもそも「クビ」とは何か? 解雇を巡るさまざまな疑問を、ブラック企業アナリストの新田龍氏が解説する。
グローバル経済における、わが国の「解雇」をめぐる対応について
今般の米ツイッター社における解雇騒動は「グローバル市場における日本の雇用」を考える上では貴重な契機といえるだろう。もちろん、日本に進出してきた企業であれば、日本の法律慣行を守るべきであることは当然だ。しかし、以前の記事でも解説した通り、現在わが国の標準となっている、いわゆる「メンバーシップ型」の雇用慣行を採り入れているのは世界を見渡しても日本だけ。
むしろ日本企業であっても、グローバル展開し、海外売上高比率も高いところは、グローバル標準である「ジョブ型」雇用を積極的に採用しつつある。少子化が進むわが国において、グローバルレベルでの優秀人材確保のためには、わが国の法律や慣行のほうを機動的に見直していかねばならない面もあるように思える。
もし、事業の発展に貢献してくれるような優秀で希少な人材が見つかり、高額報酬で迎え入れることになったとしても、仮に採用後にミスマッチが発覚したり、急激な市況・業績変化があったりすることを想定すると、「解雇のしにくさ」は採用の大きなボトルネックになることは間違いない。
「解雇したらトラブルになる」ことがほぼ確定している場合、雇用側にとってはリスク要因となり、高い報酬を設定すること自体をためらうことにもなりかねない。必然的に「絶対に間違いない人しか採用しない」こととなり、採用ハードルは上がり、流動性は低くなるリスクもあるだろう。付加価値が高いゆえに高報酬を用意している外資系企業が、わが国で高報酬ポジションの採用を避けることになるかもしれないのだ。
とはいえ、「雇用の流動性を高めるためにも解雇をしやすくしよう!」などと提言すれば大きな反発を受けてしまうのは確実だ。現実的な解決策としては、「解雇の金銭解決」を今より簡潔かつ円滑にできるようにするのがよいだろう。
意外に思われるかもしれないが、現在わが国では、解雇を金銭解決できる制度が存在しない。そのため、会社から不当解雇された人が裁判で争う際には、いくら会社に愛想を尽かしていて復職したくなくても、「解雇は無効だから復職したい」と主張するしかないのだ。会社側としてもいったん解雇した人物を復職させる気はなく、解雇の撤回もしたくない。ではどうするかといえば、お互いにとってあまり意味のない「復職」をテーマに裁判し、その妥協点として「退職する代わりに解決金を獲得する」という方向に持っていくしかないのである。
「解雇の金銭解決」を制度として正式に導入できれば、そんな不毛なやりとりをしなくても済む。それも、わざわざイチから制度構築する必要もない。現行の労働契約法16条に追加して、例えば「解雇に際し、使用者が対象労働者の賃金6カ月分以上に相当する金銭を支払った際は、その解雇は客観的な合理性を有し、社会通念上相当であると見なす」といった一文を入れるだけでいいはずだ。
世界から優秀人材を集めて付加価値の高いビジネスを実現するためには、雇用制度もある程度は世界標準に合わせていく必要があるだろう。実情に合わせた制度変革が望まれるところである。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員にまつわるトラブル解決サポート、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『クラウゼヴィッツの「戦争論」に学ぶビジネスの戦略』(青春出版社)
12月1日に新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)を発売予定。
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