トヨタがEV普及で抱える最大の弱点とは? “EV戦略見直し”報道で考える各社の現在地(1/4 ページ)
トヨタがEV戦略を見直すとの報道が出ている。トヨタの弱点を考察する。
英ロイター「トヨタがEV戦略見直し」と報道
ここ数カ月のことですが、電気自動車(以下EV)化促進を巡る自動車業界の様相が若干、不透明感を増しているとの印象を強くしています。理由の1つは、トヨタ自動車(以下トヨタ)を巡る、突然の報道です。英ロイター通信は10月24日、トヨタがEV戦略の大幅な見直しを検討するとともに、その一環として同社基幹車種であるクラウンの全面EV化の停止を含め、昨年12月に発表した2030年までにEV30車種を揃える計画を既に変更していると報じたのです。
その理由は、トヨタがスバルと共同開発した車台「e-TNGA」のコスト的な問題であるとされ、これを破棄しEV設計の根本的見直しに入ったというのです。この報道に対してこれまでトヨタから否定、肯定いずれのコメントも出されてはいませんが、業界を揺るがしかねないショッキングな報道であり、それをあえて否定しないということは、当たらずとも遠からずではないか、と思えます。
EV製造の高コスト、米国内でも問題視
EVの製造コストの問題は、実は米国でも問題視され始めています。その原因として、まずアメリカ国内のEV化が思うように進んでいないことが挙げられます。国際エネルギー機関調べによる21年のアメリカの新車販売に占めるEV比率でみても、PHV(プラグインハイブリッド)を含めて5%に過ぎません。
これに対して中国は16%、欧州は17%、販売台数でも中国の5分の1、欧州の4分の1という状況なのです。販売台数が伸びなければ、1台あたりの製造コストは高止まりしたままであり、量産効果は全く出ていないのです。
米の補助金、販売価格と国内生産車に制約
この状況に加えて、充電バッテリー素材が値上がりを続けており、先行の米テスラも含め、米国大手各社はEV販売価格の値上げに踏み切っているのです。ここで問題になるのは、値上げをして販売価格が5万5000ドルを超えてしまうと、米国政府がEV普及策の切り札としている購入補助金が受けられないという問題です。
さらに、購入車が米国内生産車でなければ、これもまた購入時の税制優遇の対象にならないというハードルもあり、人件費の安い海外生産も現状では難しいという状況にあるのです。販売台数は増えず、さりとて値上げもままならずの状況下で、米国の大手各社はEV化促進が思うに任せないというのが現状のようです。
充電スタンド不足、日本で深刻な課題に
日本国内に目を転じれば、EV比率は1%に満たない状況であり、米国以上にEV製造コストの問題は大きくのしかかっています。国内におけるEV普及に向けた最大のポイントは、充電スタンド不足の問題です。
最近の国内の1時間350kWh・200V急速充電ステーションは8000弱。全国で8000というのは、いざという時に探し回らないと見つからないレベルでしょう。ちなみに家庭レベルの1時間6kWh・200Vでの充電では、1時間充電して走れる距離は20キロ弱。探し回らなければ急速充電スタンドがなく、“充電難民”になる恐れがあるという環境では、まだまだ怖くてEVで遠出はできない状況にあるといえるでしょう。加えて、急速充電を多用すると、バッテリー故障の恐れもあります。
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