北欧が仕掛ける「Climate Fintech」 脱炭素への貢献可視化で、動き出す消費者たち:北欧のネクストイノベーション「Climate Fintech」に迫る旅(1/2 ページ)
気候変動対策の優等生として知られる北欧・バルト諸国。そんな地域でネクストイノベーションとして注目を集めているのが「Climate Fintech」だ。なぜ注目を集めているのか? 北欧を中心に活動するVCに所属する筆者が解説する。
連載:北欧のネクストイノベーション「Climate Fintech」に迫る旅
気候変動対策の最先端を走り続ける北欧・バルト諸国――。地理的・環境的要因からデジタル活用が活発で、BNPLやオンラインKYCなどさまざまなイノベーションを生んできた。そんな地域で気候変動対策×デジタルのネクストイノベーションとして話題になっているのが、脱炭素への貢献と消費者や企業のファイナンス活動を結びつける“Climate Fintech”だ。北欧・バルト地域を中心に投資活動を行うNordicNinja VCのパートナー宗原智策がClimate Fintechの最先端を紹介する。
11月20日、エジプトにて期待と不安と共に「国連気候変動枠組み条約会議(COP27)」が幕を閉じました。昨年のCOP26で採択された「グラスゴー気候合意」からの進展がないことを嘆く声が多い中で、数少ない成果として歓迎されているのが「損失と損害」に特化した途上国向けの基金創出です。
実はCOP27に先んじて世界で初めて途上国の「損失と損害」に対する資金拠出を示した国がありました、それが北欧のデンマーク(※)です。デンマークを含めた北欧・バルト諸国は、広大な国土に厳しい気候のため他国に比べて一人当たりのエネルギー消費が大きく、気候変動含めた人々の環境意識は非常に高いです。
※デンマークは1億デンマーク・クローネ(約20億円)の拠出を9月の時点で表明しています。
また、北欧・バルト8カ国合わせて人口が約3300万と、日本の首都圏程度の人口しかない小国の集まりであるため、グローバル・アジェンダに敏感であり、気候変動に対しても各国政府が非常に積極的な姿勢を持っています。例えばフィンランドは、1990年に世界で初めて炭素税を導入し、2006年にはこちらも世界で初めてサーキュラーエコノミー国家としてのロードマップを策定した国でもあります。
さて、この北欧・バルト地域には、世界で最もデジタル化が進んだ地域であるという特徴も持っています。前述のとおり、この地域は人口が少ないにもかかわらず国土が大きいため、人口密度が非常に低いです(※)。加えて、冬は降雪量が多く島も多いため、キャッシュレス化や行政サービスのデジタル化が必要不可欠でした。
※スウェーデンの国土は欧州最大で日本の1.2倍、フィンランドは日本とほぼ同等、人口130万人のエストニアでさえも九州よりも大きい国土を持ちます。
世界で最も行政サービスのデジタル化が進んでいるデンマークとエストニアでは、日本の「マイナンバー」に相当する国民IDの使用が義務化され、ほぼ全ての行政サービスがオンラインで完結します。余談ですが、DXという言葉も、04年にスウェーデンのウメオ大学の教授が提唱したものとされています。
このような環境なので、ローカルでの社会実装を経てグローバル市場に羽ばたくフィンテック企業も多く存在します。あまり知られていませんが、BNLP(Buy Now Pay Later)の先駆者のKlarna、国境を越えない国際送金のWise(旧Transferwise)やオンラインKYC(Know Your Customer)のVeriffなどはこの地域発のイノベーションです。
そして今この地域でのネクストイノベーションとして注目を集めているが、気候変動とフィンテックを掛け合わせ、脱炭素への貢献と消費者や企業のファイナンス活動を結びつけるClimate Fintechと呼ばれるものです。
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