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ウクライナ戦争で崩壊した“再エネ神話” 太陽光発電8つの課題と原発の未来(8/8 ページ)

ウクライナ戦争で浮き彫りになったエネルギー政策の課題を検証する。

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原子力政策には中長期的な視野を

 30年に向けた原子力政策としては、(1)安全最優先での再稼働の加速、(2)使用済燃料対策、(3)核燃料サイクル確立、(4)最終処分の4点が挙げられている。今後、原子力の安定的な利用を推進する上で、特に(2)〜(4)が重要となってくる。

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日本にある原子力発電所(提供:ゲッティイメージズ)

 核燃料サイクルの必要性は、廃棄物の減容と資源の有効利用にある。原子力発電による電力が50年以上にわたって供給されてきた結果、使用済み燃料が1.9万トン蓄積され、貯蔵容量の約8割に達した。

 貯蔵容量を増やすために乾式貯蔵、むつ中間貯蔵施設の計画を進めているが、根本的には22年度竣工予定の六ケ所再処理工場で廃棄物体積を4分の1に減容し、高レベル放射性廃棄物を分離処分しガラス固化体にして300m以深の地層処分にする必要がある。地層処分は北海道の2地点で文献調査を実施中で、国としてはさらに候補地を増やす計画である。

 さらに、再処理工場で分離されたウラン、プルトニウムを、24年竣工予定のMOX燃料加工工場でMOX燃料に加工し、稼働中の原子力発電所に燃料として再利用する必要がある。現在は、使用済み燃料を英国とフランスに輸出し、再処理・製造されたMOX燃料を輸入して稼働中のPWR4基で燃料として利用している。

 資源の有効利用に関しては、MOX燃料の利用の他にこれまでに蓄積されたプルトニウムの利用がある。現在、日本には約47.3トンのプルトニウムがあり、イギリスで処理済みが21.2トン、フランスで処理済みが15.5トン、日本原子力研究開発機構(JAEA)に4.6トン、各発電所に2.3トンが保管されている。

 本来このプルトニウムは高速炉の燃料として利用する計画だったが、高速原型炉「もんじゅ」が廃炉決定となった。一方、世界各国では、Natriumのような新しい高速炉型SMRでプルトニウム燃料の利用が計画されている。

 21世紀が始まって20年以上が経過した。今後、革新的な技術開発によって21世紀に相応しい持続可能な原子力利用が実現されるものと期待している。エネルギー戦略は、日本経済や国民生活に大きな影響を及ぼし、国や企業の盛衰をも左右する重要な問題だ。

 日本の過去の経緯やエネルギー資源、国土、自然環境、さらに蓄積されてきた技術力や生産力を踏まえて、10年、20年先の中長期的な視野に立った戦略が必要と考える。日本の将来に影響するエネルギー問題について、包括的かつ定量的な情報・知識をベースに、国民一人一人がそれぞれの立場で関心を持つことが望まれる。

書き手:三木一克(みき・かずよし)

1948年5月28日生まれ。73年京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、日立製作所入社。79年京都大学工学博士取得。81年から1年間米国アルゴンヌ国立研究所に社費留学。同社エネルギー研究所及び機械研究所長などを歴任し、2010年4月1日付で日立メディコ社長に就任。12年に同社特別顧問に就任し14年に退職。現在は科学技術振興機構(JST)で「研究成果最適展開支援プログラム」のアドバイザーを担当する傍ら、経営者経験を持つ技術者集団「技術経営士の会」顧問を務めている。専門領域は発電工学、機械工学、計算工学、医療画像診断。主な著書に『企業におけるイノベーションと技術経営の実践』(サイバー出版センター)がある。

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