メイウェザーと信頼関係を築き上げた交渉術 RIZIN代表に舞台裏を聞いた:伝説の試合を実現(2/3 ページ)
経済誌『フォーブス』が発表した「世界で最も稼ぐスポーツ選手」フロイド・メイウェザー。そんな伝説のボクサーをいかにして口説き、どのように伝説的な試合を日本で実現させたのか。前編に引き続き、「RIZIN」の榊原信行代表に、舞台裏を聞いた。
コミュニケーションは質より量
――しかし、18年の那須川天心選手との成功体験ができたために、22年9月に実施された朝倉未来選手との試合が実現したわけですね。
一度エキシビションマッチという非公式戦をやってみたことは大きいと思います。ボクシングコミッションの管轄外でできる新しい競技が生まれました。本来、階級やランキングを考慮すればメイウェザーがローガン・ポール(米国の著名YouTuber)と試合をすることなど、あり得ません。しかしそれが成立するのはエキシビションマッチだからです。
その最初のきっかけを作ったのは18年の「メイウェザーvs.那須川天心戦」です。契約当初は疑心暗鬼だったメイウェザーも、試合を終えると、これだけ日本の整った環境で試合ができたことに満足し、われわれのことを高く評価してくれました。
――22年9月の会見でメイウェザー選手にアイティメディアとして質問した際、榊原代表のことを「榊原代表は正直で、言ったことをしっかりやる。素晴らしい人です」とおっしゃっていました。これほどの信頼関係をいかにして築いたのでしょうか?
私は興行主として長い間、あらゆる選手と交渉をしてきました。選手からYESを得たいがために、風呂敷を広げたり、話を盛ってしまったり、ごまかしたりすることは、その場はよくても後で自分の首を絞めてしまいます。
兎にも角にも言ったことをきちんとやって、できないことはできないと言うことが重要です。大枠で合意できていても各論でもめてしまうことは、特に1対1の人間同士が殴り合う格闘技では多々あります。とりあえず先に発表して、後で何とかしようとせずに、初めから最大級の条件を提示して、口約束であっても守り通していくことが大切です。
――またメイウェザー選手は「世界がコロナでシャットダウンされている中でも、彼はラスベガスに4〜5回会いに来てくれて、その都度、建設的な話をして関係を保ってきました」と話していました。直接会うことも大切にしているのですか?
選手と交渉する上で、直接、顔を合わせることも大切にしています。コロナ禍でリモートが増えたと思いますが、オンラインだと伝わることは限られています。これはある方から教えてもらったのですが、「コミュニケーションとは質より量」だということです。
会ってあいさつを交わすだけでも良いのです。よってメイウェザーとも、コロナ禍の頃から半年に1回くらいは会っていました。それが結果としてメイウェザーからの評価につながったのだと思います。
――ただ一方で、フロイド・メイウェザーvs.朝倉未来の花束贈呈では、礼節を欠いた男が居ました。あの一件から何を学びましたか。
スポーツやイベントを開催している以上、さまざまなトラブルが起こります。われわれもいろいろなケースを想定しているのですが、あの試合では想定外のことが起きてしまいました。
以後、リングは神聖な場所であって、リングに上げる人に対してはルールを決めるようにしました。しかし格闘技の大会では選手やお客さんも非日常の中でアドレナリンが出ている状態にあります。普段やらないような問題を起こす可能性が、あり得ます。
いろんなケースを想定しながら、非難するだけでなくて自戒の念を込めて今後こういうことが起きないような対策をしたいと思います。そして自分たちの戒めになるよう、プラスの方向に生かしたいと考えています。
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