ホリエモンの宇宙ベンチャー「Our Stars」が仕掛ける“通信事業の地殻変動”:衛星通信3.0(1/2 ページ)
ホリエモンが創業した、北海道大樹町のインターステラテクノロジズでは、超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発が本格化している。「ZERO」によって超小型の人工衛星を打ち上げて、情報通信事業や地球観測事業の展開を目指しているのがOur Starsだ。ホリエモンに、Our Starsが研究開発している高速な衛星通信によって「衛星通信3.0を実現したい」と語る真意を聞いた。
2023年の幕が上がった。22年は宇宙産業以外の民間企業による宇宙ビジネスへの参入が進み、宇宙の民主化が一気に進んだ。
実業家のホリエモンこと堀江貴文氏が創業した、北海道大樹町の宇宙の総合インフラ会社インターステラテクノロジズ(以下、IST)では、超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発が本格化している。22年はエンジン部品の試験や構造部のエンジニアリングモデル試験などを実施した他、射場の整備が始まるなど、23年度中の打ち上げを目指して準備が進められている。
この「ZERO」によって超小型の人工衛星を打ち上げて、情報通信事業や地球観測事業の展開を目指しているのが、ISTの子会社であるOur Starsだ。社長も務める堀江氏は、Our Starsが研究開発している高速な衛星通信によって「衛星通信3.0を実現したい」と語る。
ISTとOur Starsが取り組む宇宙輸送や宇宙利用の分野は、国も民間企業への支援を強化するなど、この1年で実現に向けた期待が高まっている。ITmedia ビジネスオンラインでは堀江氏に単独インタビューを実施。「ZERO」と、Our Starsによる研究開発の現状と、23年の展望を聞いた。
堀江貴文(ほりえ・たかふみ)1972年福岡県八女市生まれ。実業家。SNS media&consultingファウンダーおよびロケット開発事業を手掛けるインターステラテクノロジズのファウンダー。 Our Stars代表取締役社長。現在は宇宙関連事業、作家活動のほか、人気アプリのプロデュースなどの活動を幅広く展開。2019年5月にはインターステラテクノロジズ社のロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号機(MOMO3号機)」が民間では日本初となる宇宙空間到達に成功した。『ゼロからはじめる力 空想を現実化する僕らの方法』(SBクリエイティブ)、『非常識に生きる』(小学館集英社プロダクション)など著書多数(撮影:河嶌太郎)
着々と進む新型ロケット「ZERO」の開発
ISTはこれまで観測ロケット「MOMO」の打ち上げを3度成功させてきた。19年5月に「宇宙品質にシフト MOMO3号機」で初めて地上約100キロの宇宙空間に到達。続く4号機、5号機では成功とはいえない結果に終わったものの、約1年かけて全面改良に取り組み、21年7月には7号機にあたる「ねじのロケット」と、6号機の「TENGAロケット」の打ち上げを立て続けに成功させた。
22年は「MOMO」の打ち上げは実施しなかった。それは、23年度からの打ち上げを目指している新たな超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発が本格化しているからだ。
「ZERO」は超小型人工衛星を地球周回軌道に投入するロケットだ。「MOMO」と比較すると機体重量は約30倍、エンジンの出力は約50倍で、開発の難易度も高い。さらに、「ZERO」ではロケットの低コスト化も目指していて、商用化の際には打ち上げ1回あたりの費用を6億円以下に抑える計画だ。
22年10月には、東京都三鷹市にある宇宙航空研究開発機構(JAXA)の調布航空宇宙センター飛行場分室で、機体胴体の構造部エンジニアリングモデル試験も実施した。この1年の「ZERO」の開発状況を、堀江氏は次のように振り返る。
「エンジニアリングモデルは実際にフライトするモデルの1つ前の段階のもので、設計通りに成立するかどうかを実際に試すものです。JAXAのOBなど有識者にレビューしてもらって、微調整しています。どんどんエンジニアリングモデルを作って試しているところですね。
胴体構造部などは順調に開発が進んでいます。一方で、ターボポンプなど、新規要素になる分だけ、要素試験から開始していて難しいものもあります。もちろん、ローコストでロケットを作るチャレンジをしているので、新しい技術については想定通りにはいきません。今の段階ではエンジニアリング試験ができるレベルに到達していればいいので、見つかった技術的な課題は時間をかけて解決していけばいいと考えています」
Our Starsが目指す「衛星通信3.0」
「ZERO」の開発が本格化する一方で、子会社のOur Starsでも人工衛星サービスの事業化に向けた研究開発が進められている。事業の柱は超々小型衛星を使った衛星通信サービスと、高度約180キロメートルの超低高度衛星による地球観測サービス、それに宇宙実験用衛星の打ち上げと回収の3つだ。
このうち衛星通信サービスでは、超々小型の人工衛星をフォーメーションフライトさせて、巨大なアンテナの役割を果たす技術の開発を進めている。人工衛星1つの大きさは数センチで、多数の人工衛星を協調して動作させるコンステレーションの技術を使って、宇宙空間に数千個の衛星の群れを作る計画だ。
「コンステレーションをうまく動かすため、無重力設備を使って技術実証するための準備を進めています。実際に衛星を作って電波の広がり方を見たり、衛星を制御するアルゴリズムを考えたりしていて、すでに特許も出願しています」(堀江氏)
衛星通信では、スペースXが開発した衛星ブロードバンドインターネットのスターリンクが世界中でサービスを展開。日本国内でも22年10月にサービスを開始し、法人や自治体向けの提供ではKDDIと提携している。Our Starsとスターリンクの違いを、堀江氏は次のように説明する。
「スターリンクが衛星通信2.0だとするならば、Our Starsでは3.0的なことを考えています。1.0はグローバルスターやイリジウム、インマルサットなどの衛星通信サービスで、携帯電話で言えば3Gか、3Gに届かないくらいの通信スピードです。スターリンクは4Gくらいのイメージですが、スマホで直接通信ではなく、地上ユーザーに50センチくらいのアンテナが必要ですね。
Our Starsが巨大なアンテナを展開できれば、4Gよりも速いブロードバンド通信がスマートフォンと直接できるようになります。衛星間はレーザー光通信ができるので、海底ケーブルは必要ありません。高周波帯域を使うため、免許も比較的取りやすいのではないでしょうか。
早ければZERO初号機の空いているスペースにOur Starsの衛星を載せて、実証実験をします。成功すればどんどん打ち上げて、スペースXと同じようにサービスを展開できるようになると思います。おそらくサッカーコート並みの巨大アンテナが作れるのではないでしょうか。ある通信会社の社長も『これが実現したらすごいね』と話していました。衛星通信のイノベーションが起こせると考えています」
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