新NISAは「老後資金2000万円」をどう解決するのか? 普及のために乗り越えるべき「意外」なハードルも:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
2022年末に取りまとめられた税制大綱にて、NISA制度の拡充や恒久化が明らかになり、話題となった。果たして今回の改革で、「老後資金問題」にどのような影響が出るのか。そして、普及のための意外なハードルとは。
確かに、NISA制度の導入は証券業界にとって大きな刺激となった。証券会社や信託銀行などが、NISA対応の商品を多数提供するようになり、毎月分配型の投信や複雑でリスクの高い金融商品との住み分けを行うことで、これまで「客殺し」とすら評されることもあった証券業界に対する信頼の回復にも寄与したといえる。
とはいえ、今回の改革を手放しで喜ぶことも難しいのではないか。新たな制度に対応するために、技術的な改修や人的資源の確保といったコストが発生するからだ。
そもそも、証券各社のビジネスにとってNISA口座自体はもともと歓迎されていなかった。なぜなら、NISA口座の取引手数料は「無料」が相場であるため、そこから信用取引や特定口座での取引に移行してもらわなければ、基本的に赤字となるからだ。個人投資家からすれば、証券口座を無料で保有できる一方、裏側では証券保管振替機構や情報ベンダーといったさまざまな事業者に対して一定の管理コストがかかっている。そして、そうしたコストを負担しているのは証券会社側だ。
銀行であれば、預かった預金を融資や投資に回すことで利ザヤを獲得できる。しかし、証券口座の預金や株式は、銀行預金ほど柔軟に利ザヤを確保できる性質のものではない。従って、NISA改革により証券会社のサービスに“タダ乗り”できる国民が大量に流れ込んでしまえば、証券ビジネス全体の勢いにブレーキがかかることが想定される。
国策としてNISA制度を拡充することは、皮肉にも「貯蓄から投資へ」の受け皿となる証券業界にとってはマイナス効果も懸念されるというわけだ。そのため、NISA推進に積極的な証券会社に対する補助金の交付など、事業者側にも推進するインセンティブを与えなければ、制度拡大のための積極的なPRや広告施策を実施しにくくなる可能性がある。「貯蓄から投資へ」の実現に向けて、事業者にとってのマイナスポイントにもスポットライトを当てた制度設計が必要となっていきそうだ。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCFO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CFOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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