新NISAは「老後資金2000万円」をどう解決するのか? 普及のために乗り越えるべき「意外」なハードルも:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
2022年末に取りまとめられた税制大綱にて、NISA制度の拡充や恒久化が明らかになり、話題となった。果たして今回の改革で、「老後資金問題」にどのような影響が出るのか。そして、普及のための意外なハードルとは。
金融庁が本来指摘したかった点は、長期の積立投資でその資産を形成することも不可能ではないという点ではないか。
現行のNISA制度では、NISA口座だけで2000万円を工面することは難しい設計になっている。なぜなら、現行制度は、つみたてNISAで「20年・累計800万円」の枠か、一般NISAで「5年・累計600万円」の枠しかなく、資産を途中で売却しても非課税枠は復活しないからだ。
人生において結婚や住宅購入、子どもの学費、入院といった突然の出費はつきものだ。銀行預金であれば、資金繰りのために一時的に預金を取り崩すことは可能だが、NISAでは非課税枠が復活しないため、取り崩した後は非課税枠の恩恵を受けられなかった。
つみたてNISAのような投資手法は購入時にリスクが分散されることこそ確かだが、積み立て切ってしまうと、そこからのリスクは一括投資と変わらないという欠点がある。従って、つみたてNISAの最終的なパフォーマンスは「運用期間における最後の1〜2年に暴落相場が発生しないこと」という不確実性に大きく依存していたといえる。
新NISAは何が画期的なのか
新NISAでは、非課税保有期間が無期限となり、途中で売却した場合でも累計の非課税枠が復活する仕組みになるという。そして、非課税となる買付額は最大で1800万円(一般NISA相当の成長投資枠は1200万円まで)と、今までとは桁違いに設定されている。
原資ベースでも老後資金の9割が確保できるレベルまで引き上げられているため、老後資金2000万円をNISA口座における資産運用だけで達成することも十分現実的になるといえるだろう。
新しいNISAでは、急な出費の発生時には預金と同じように取り崩し、余裕ができた段階で再補充することが可能な点でも機動性に優れている。先述した、非課税期間の終盤に暴落するか、しないか――という運にも左右されにくくなる。暴落時には保有を継続し、景気が上向いてきた段階で取り崩しを始めるなどすれば、非課税効果のメリットを運に依存せず享受できる点が素晴らしいといえる。
非課税枠として設定された「1人1800万円(最大)」は、大半の国民における預貯金額を超過していると考えられるため、NISAでのみ資産運用をする、というスタイルが定着していきそうだ。また、贈与税などの問題はあるが、4人家族であれば実質的に非課税枠は最大で7200万円分確保できることになる。NISA以外で証券口座を利用するのはデイトレーダーや大口の顧客に集約されてきそうだ。
証券業界がNISA改革を素直に喜べない理由
市場では、「NISA改革で貯蓄から投資へが本格化する」という観測もあり、証券会社や証券サービスを提供する会社の株価が高騰する場面も見られた。
しかし、ほとんどの国民がNISA口座で資産運用を完結させ得る今回の改革は、取引手数料で収益を上げる証券業界にとっては、むしろマイナスに働く可能性すらある。
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