「リスキリングに5年で1兆円」 政府の号令に中小企業は何から取り組むべきか:笛吹けど踊らず?(1/2 ページ)
岸田政権は2022年10月に「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。リスキリングの必要性が高い中小企業は、政府の号令に何から取り組むべきでしょうか?
昨今、リスキリングという言葉を新聞やネットニュースなどで目にすることが増えています。岸田政権は2022年10月、第210回臨時国会の中で「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。それを支援するための助成制度も誕生しています。
しかし話題になっている半面、思うように実施されていないのが実情。パーソル総合研究所の調査によると、新しいツールやスキル、知らない領域の知識などを学んだとする「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後にとどまっています。
筆者が顧問先の中小企業の担当者に、リスキリングを実施した企業に支給される助成金の制度について説明しても今一つ反応が薄い印象でした。そこで今回はリスキリングが進まない理由とその解決策について説明します。
リスキリングの必要性が叫ばれている背景
リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルの習得を目的に、勉強してもらう取り組みです。その必要性について盛んに報じられるようになったのは、次の2つの理由があると思われます。
一つは「中小企業における低い生産性の改善」のためです。日本人の給料がここ30年横ばいという問題が指摘されますが、その要因の一つとして考えられるのが中小企業のDXの遅れに伴う生産性の低さです。時間当たりの売上高が低ければ、社員に還元する原資を確保できません。
ITツールを導入したくてもそれを使いこなせる人材がいないという悩みを抱えている中小企業は少なくないと思います。このような課題を解決するため、IT関連のスキルを持った人材を養成する必要があります。
もう一つは、「定年延長化に伴う学び直しの必要性」です。21年4月に高齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。今は努力義務であっても年金の支給年齢の引き上げに連動して義務化される可能性もあります。
もしそうなれば、大半の人は20歳前後から70歳まで約50年間働くことになります。どの職種であれ、50年間同じスキルで働き続けるのは難しいでしょう。テクノロジーの進化に伴い自分の持つスキルの陳腐化は早まります。長い間仕事を続けるために、新たなスキルを身につけなければなりません。
似た言葉としてリカレント教育というものがありますが、違うものです。リスキリングは企業が従業員に学ぶ機会を与えるものに対して、リカレント教育は社会に出てから一度仕事を離れ、大学などで教育を受け直してからまた仕事に戻るという本人の選択による循環を指すからです。
関連記事
- 定年退職後に嘱託社員として再雇用 賃金50%カットの妥当性は?
少子高齢化に伴い、高齢者活躍の土壌を整える必要性に迫られる日本。定年は60歳が一般的だが、65歳までの雇用維持、70歳までの就業機会の確保が努力義務となっている。定年退職後に嘱託社員として復帰した社員への賃金設定はいくらが妥当なのか? 社会保険労務士が解説。 - 40代正社員の平均年収が下がっている意外な理由とは? 24年間で約60万円も減少
国税庁の調査によると、1997年と2021年を比べたところ、40代正社員の平均年収が60万円ほど減少していることが分かった。なぜなのか? - 約8割の中小企業が受発注にFAXを使用 DXが急務な中でもやめられないワケ
「日本の中小企業の75.8%は受発注をファックスでやり取りしている」――そんな結果が明らかになった。DXが叫ばれている中、なぜ中小企業のファックス使用はなくならないのか? - 「部下に退職代行を使われた」 無理やり本人を出勤させることはできるのか?
退職の申し出をする際に退職代行サービスを利用する人が増えてきたという意見を耳にする。退職代行会社から連絡が来ても本人を出勤させることはできる? 引き継ぎはどうすべき? などの疑問を社労士が解説。 - 「クビを社内で公表された」 会社を名誉棄損で訴えられるのか、判決は?
最近、SNSで「やる気のない社員をクビにした」と投稿し、それが炎上した出来事がありました。SNSへの投稿はあまり例を見ないことですが、解雇を含む懲戒処分の内容を会社内で公表しているケースは多くあります。これは問題ないでしょうか? 社会保険労務士が解説します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.