「リスキリングに5年で1兆円」 政府の号令に中小企業は何から取り組むべきか:笛吹けど踊らず?(2/2 ページ)
岸田政権は2022年10月に「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明しました。リスキリングの必要性が高い中小企業は、政府の号令に何から取り組むべきでしょうか?
大手企業と中小企業でリスキリングの目的が異なる
大企業と中小企業では、リスキリングを実施する目的が異なります。大企業では、定年の延長化に伴い人員の再配置や中年社員のモチベーションアップが主な目的となることが多いでしょう。優秀な人材が多い半面、出世コースから外れた中年社員が勤務意欲を失い、働かないおじさんに転落するケースも考えられます。
こうした状況を解消するため、部門異動などに対応できる教育内容が求められます。本人のキャリアプランを練り上げるため、キャリアコンサルタントなどの専門家のカウセリングを受講させる企業もあります。
一方、中小企業では生産性を向上させることが緊急の課題です。DXの遅れがその要因であれば、キャリアプランの再確認やキャリアコンサルティングなどは後回しにしてもよいのでITスキルの底上げにフォーカスすべきです。紙ベースでの発注作業から電子データへの移行、クラウドのデータ共有などを実現できるようスタッフ全員がメールを利用したり、サーバー上でデータのやりとりができるようにしたりすべきです。
効果を実感できない?
企業は従業員に対してリスキリングを実施する際には、まず目的を明確にすべきです。何のためにリスキリングをするのか、その内容が曖昧であれば、お金と時間をかけても効果を実感できないでしょう。企業は、営利の追求を第一目的としており教育機関ではありません。実施しても営業利益に結びつかないのであれば、取り組むのを止めてしまいます。リスキリングが企業に浸透しないのは、その目的が曖昧だからと思われます。
そのためには、特に中小企業に該当することですが、DXの前に業務フローを洗い出してみるのが先決かと思われます。最新のIT機器を導入し、それを使いこなせるような教育を実施してもその企業に合ったものでなければ効果が薄くなってしまうからです。今までやってきたという理由だけで続けている無駄な業務がないのか確認するのもいいでしょう。あるいは赤字になっている事業や得意先は思い切って止めてしまうのもありかもしれません。リスキリングを実施する際には、次のような順番で行うと効果があると思われます。
業務フローの洗い出し→課題の発見→DX計画策定→リスキリング→DX(ICT機器の導入)
ここで重要なのは、DXは目的でなく手段の一つであると認識することです。ICT機器を導入すれば業務効率化につながるわけではありません。この点を理解しないでICT機器を導入したり、リスキリングを実施したりしても効果は得にくいです。
DXを進める上でリスキリングは必要か?
では、従業員に対してリスキリングを実施すればDXは成功するのでしょうか? 成功に近づけるためには、不可欠だと考えています。ICT機器を導入したものの一部の社員以外に使いこなせないため、その社員に業務が集中してしまった。結果、嫌気をさして辞めてしまうなどといったケースがあるからです。
DXを推進していく上で社員全般のITスキルの底上げを図る必要があります。なにも全員がプログラミングやマクロを組めるようになる必要はありません。メールに添付するデータの解凍や圧縮ができる、エクセルの関数の知識がある、共有サーバーやクラウド上でデータをやりとりできるレベルのPCスキルを身に付けるだけである程度変わると思います。中小企業の場合は、予算や時間も限られていますので目的を明確にした上で実施すべき内容を絞るのが効果的です。キャリアプランの構築といった抽象的な内容や漠然としたスキルアップを図るようなことは避けるべきです。
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