アマゾン超えを記録したSHEIN 時代に逆行する中、小売企業が唯一真似るべき“仕掛け”とは:小売りビジネスの寵児(1/2 ページ)
2021年5月、小売業界の寵児であるSHEINがアプリのダウントード数でアマゾンを抜いた。環境面・労務管理面で時代と逆行すると話題になるSHEIN、それでもビジネスでは急成長を続けており、小売業でも真似すべき点はあるようだ。
ファッションアパレル業界はロックダウン、店舗の営業自粛、行動制限などコロナ禍の影響を大きく受けた。各社が苦しむ中、2021年の流通取引総額が200億ドル(約2.9兆円)を超え、3年連続で爆発的な成長を遂げているプレーヤーがいる。08年に中国で誕生したEC特化のファストファッションブランド、SHEINだ。
設立当初から越境ECで海外に絞って展開し、アプリのダウンロード数は21年5月にアマゾンを抜き1位となった。36KrJapanによると、22年の上半期(1〜6月)の流通取引総額は前年同期比50%増の160億ドル(約2.3兆円)となり、ZARAの88.9億ユーロ(約1.2兆円)を優に超えるという。
ファッションアパレル業界がコロナ禍の影響を受ける中、SHEINが世界で爆発的な成長を遂げている要因は二つある。一つは圧倒的なリードタイムの速さと低コストを実現する独自のサプライチェーン。二つ目は消費者のエンゲージメントと中毒性を高める仕掛けである。
これらの二つのポイントに沿って今後のファッションアパレルプレイヤーの重要成功要因 Key Success Factor(KSF)を紹介する。
トレーナー、ZARAは4990円、SHEINは950円
SHEINがZARAやH&Mのような既存のマス向けメジャープレイヤーと大きく差をつけているのが「商品価格」「投入量」「スピード」である。シンプルなロゴの入ったトレーナーはZARAで4990円、H&Mで2799円、SHEINでは950円という圧倒的な低価格を実現している。ウォールストリートジャーナルは、ZARAが年間約1万点の新商品を展開する一方、SHEINは毎日約6000点を投入していると報じている。まさに桁違いだ。また、36KrJapanによると商品の生産サイクルもZARAやH&Mが3〜4週間かかるところをSHEINではわずか1〜2週間で仕上げるという。
これまでファストファッションと呼ばれてきたプレーヤーとも大きく異なる、ウルトラファストファッションとも呼ばれる新たなカテゴリを構築していることが分かる。
このような圧倒的な低コスト・短納期・多品種を可能としているのが、企画デザインから生産・マーケティングの全ての工程でビッグデータを活用する独自のサプライチェーンだとウォールストリートジャーナルは報じる。
企画デザインにおいてはTikTok・YouTubeなどのSNSやGoogleと提携して「Google Trends Finder」を通じ、最新トレンドや地域のファッション特性をピックアップし、消費者の興味・関心を把握。デザインが完成した後には 中国国内の約300〜400社のサプライヤーにデータを送り、それを100〜200枚の小ロットで発注 。中国のアパレル工場にとって数百枚単位のロットは通常では受けづらいが、サプライヤーが効率的に利益を上げるためにSHEINはトレーニング・テクノロジー・ITのサポートに多額の投資をすることでサプライヤーの協力体制を構築している。
小ロットで生産された商品はアプリとWebサイトで展開され、各サプライヤーに導入している独自ソフトウェアを通じて、売り上げ・閲覧状況・クリック率・カートイン率などの顧客行動をモニターし、ヒット商品や外れ商品を自動的にフィードバックする。各サプライヤーへはオンデマンドで「追加発注」「生産停止」が通知される。
この「大規模自動テストおよび再注文モデル」(Large-scale automated test and re-order model)と呼ばれるシステムを通じて、SHEINでは消費者から得られるデータによってファストファッションにおける過剰生産を抑制できているとしている。
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