レジ袋有料化の“二の舞”か プラ削減のために導入した「紙ストロー」が別の環境問題を引き起こすジレンマ:日本企業の危うい視点(1/2 ページ)
2022年は「プラスチック削減元年」と言っても過言ではないほどに紙ストローが普及した。環境に配慮した取り組みのようだが、レジ袋有料化同様に紙のほうが本当に環境負荷が小さいのか? という疑問が消費者の中で渦巻いているように感じる。紙ストロー移行は本当に意味があるのかというと……
2022年は「プラスチック削減元年」と言っても過言ではないほどに、カフェチェーンやファミリーレストランなどの飲食業界で紙ストローや紙容器などの導入が進んだ。
「ガスト」などを展開するすかいらーくHDは、1月から従来のバイオマスストローを紙ストローに順次置き換えた。10月にはマクドナルドが紙ストローの全国導入を発表している。
環境に配慮した取り組みとして称賛の声が聞かれる一方、SNSでは「飲み物がまずく感じる」「ふやける」「紙の味がする」といった使いにくさを訴える声も多い。ミスタードーナツを運営するダスキンは、20年4月からアイスドリンク向けの紙ストロー提供を取り止め、21年2月から順次、バイオマス素材を用いた樹脂ストローに変更している。
大げさかもしれないが、ミスタードーナツの事例はドリンクの飲みにくさという点だけで顧客離れが進む可能性を示唆している。企業として環境対策推進は重要な課題であるものの、それ以上に事業を継続するために顧客の動向が重要となる。
さらに、レジ袋有料化が「本当に環境保全につながるのか?」と大きな論争を呼んだように、プラスチックストローよりも紙ストローのほうが本当に環境負荷が小さいのか? という疑問が消費者の中で渦巻いているように感じる。
紙ストロー移行は果たして意味があるのか。製品製造〜廃棄に生じる環境負荷について研究している東京大学大学院工学研究科都市工学専攻・中谷隼准教授に話を聞いた。
紙ストローが悪化させる環境問題もある
食品用容器の開発・製造業務を手掛けるグローバル企業のテトラパック(本社:スイスのローザンヌ)は、「LCA(ライフサイクルアセスメント)に関するレポート(原題:LCA of plastic & paper straws for portion-sized carton packages)」の中で、「プラスチックストロー&プラスチック袋」「紙ストロー&プラスチック袋」「紙ストロー&紙袋」という3パターンそれぞれの環境負荷を算出・発表している。
調査の結果、プラスチックから紙に移行することで、「気候変動」「非再生可能資源(化石燃料)」に対する環境負荷は小さくなるものの、「酸性化」「富栄養化」「水不足」への負荷は大きくなることが分かった(図1参照)。
影響項目が異なる理由としては、「プラスチックは石油原料であることに加え、製造時にエネルギーがかかります。そして、消費者が捨てたあとに焼却処分するというLCAの全段階においてCO2を多く排出します。そのため、気候変動と非再生可能資源への影響が大きいというわけです。紙の原料は化石燃料ではないものの、製造時にはエネルギーを使うので、気候変動や非再生可能資源への影響もプラスチックの半分程度はあります。さらに、製造には多くの水を必要とします。結果として、富栄養化や水不足などの数値が高くなります」(中谷准教授)という。
「紙ストロー移行は環境にいい」と断定するのは難しく、トレードオフの関係にあることが分かる。テトラパックはレポート内で地球環境への影響力の大きさと重要性を考慮して「気候変動」「非再生可能資源の保全」に優先的に取り組む必要があると示しており、紙ストローや紙袋の有用性を主張している。
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の開催やロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー問題などから、近年世界的に気候変動や非再生可能資源の保全の重要性が高まっていることは明らかだ。では、紙の使用を増やし、プラスチックを減らす傾向が高まるか、というとそうとも言い切れないという。
「紙を製造する際のエネルギーを再生可能エネルギーでまかなうことで、CO2排出量の削減につながります。その方向性については業界団体も言及しています。ただ、石油化学業界も排ガスや大気中のCO2をプラスチックなどの化学品の原料として活用したり、廃プラスチックを再生利用したりするやり方を模索しています。2050年に向けて各業界が排出量削減に取り組んでおり、現段階でどの業界の施策が最も効果的かを見極めるのは難しいです」(中谷准教授)
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