アマゾン超えを記録したSHEIN 時代に逆行する中、小売企業が唯一真似るべき“仕掛け”とは:小売りビジネスの寵児(2/2 ページ)
2021年5月、小売業界の寵児であるSHEINがアプリのダウントード数でアマゾンを抜いた。環境面・労務管理面で時代と逆行すると話題になるSHEIN、それでもビジネスでは急成長を続けており、小売業でも真似すべき点はあるようだ。
Z世代に人気のTikTokやYouTubeの「Haul Video(爆買いビデオ)」でもSHEINは存在感を放つ。「#shein」が付くTikTokのビデオは22年11月現在、422億回再生を記録している。
36KrJapanによると、SHEINはマーケティングにはKey Opinion Customer (KOC)と呼ばれるインフルエンサーを活用。芸能人や有名インフルエンサーなどのいわゆるKey Opinion Leader(KOL)に比べるとフォロワー数やリーチできる顧客層の広さは劣るものの、KOCはマス消費者にむしろ親近感を持たれやすく、消費者目線の情報や見せ方を低コストで発信できる。KOCはYouTubeやInstagram、TikTokを通じて商品を紹介することで、SHEINから無料の商品提供や売り上げの10〜20%のコミッションを受け取れるという 。
SHEINではアプリとWebサイトに流入してきた顧客に対して「中毒性」を与え、購入というよりは「再来」を促すような仕掛けが多数ある。アプリ・Webサイトを開いてまず目に入るのが、画面の各所に配置されたクーポンや割引きの案内だ。商品を探しにカテゴリをクリックしても画面には利用可能なクーポンが表示され、「〜日まで」「〜円以上購入で利用可能」の記載がさらに限定感を訴求する。
ポイントシステムも整備されており、商品購入だけでなくさまざまな「アクティビティ」に応じたポイントを付与。アクティビティとしては、チェックインやミニゲーム、インスタグラムへの投稿、フォトレビューの投稿不定期で開催されるイベント(コーデチャレンジ・ライブストリーミング)への参加などがあり、ゲーム感覚でポイントを獲得できるシステムだ。Z世代が常に見ているSNSへの展開とアプリ・Webサイトを開きたくなる仕組みによってSHEINへの「中毒性」を高め、再来店・再購入を促進する。
このように、SHEINはZ世代との関係性を徹底的に深めるべく、KOCをフックに彼らを取り込み、日々大量に更新される商品と飽きさせないユーザー体験により中毒性を高め、SHEINの世界観・楽しさに“ハマった”ユーザーに求められる商品をタイムリーに提供することで急拡大を遂げている。
時代に逆行するSHEIN
急成長するSHEINの大量生産・大量消費を助長するビジネスモデルやサプライチェーンは、近年のサステナビリティの流れと逆行しており、メディアからの批判も高まっている。今後のさらなる成長に向けては、時代の流れとどのように折り合いをつけるのかという課題は残るものの、SHEINが取り組む「顧客情報を活用したバリューチェーン」の構築は今後のライフスタイル市場における1つのKSFになるだろう。
今までのような顧客の属性情報・購買情報という過去の実績データにとどまらず将来を予測する先行指標となるような顧客情報を収集・分析し、商品の企画から販売までの一連の工程に生かす取り組みは、SHEINだけでなくライフスタイル市場のさまざまなリーダー企業も注力している。
Forbesによると、ナイキは18年に買収したテック系スタートアップのZodiacの技術を生かし、自社アプリ(NIKE Run Club・NIKE Training Club・Sneakers)で収集した顧客情報を基にダイレクトマーケティングや店舗ごとの立地に合わせた商品を展開しているという。 例えば、ITを活用したコンセプトストア「Nike Live」では周辺地域の会員の購入履歴データなどを基に店頭の商品を2週間に1回変更し、ローカル顧客との接点強化と販売機会の拡大を狙っている。
無印良品を運営する良品計画は「暮らしの良品研究所」の「IDEAPARK」を通じて、顧客からの既存商品に対するリクエストや新たに欲しいと思う商品アイデアを募集し、ユーザー同士でも閲覧、いいね、コメントができるポータルサイトを運用している。これらのリアルなVOC(Voice of Customer)を商品改良や新商品開発に活用するのだ。これも「顧客情報を活用したバリューチェーン」の事例と言えるだろう。
このように小売市場のプレーヤーにとって「ブランドとの関わりや趣味趣向に関する顧客データ」の事業活用は重要性を増している。その際に肝となる、「最も関わりの深い/あるいは深めたいターゲット顧客は誰か」といった論点にSHEINは適切に答えている。
SHEINのビジネスモデルは環境面・労務管理面で時代と逆行する部分は見受けられながらも、その機動的なバリューチェーンの考え方やそれを実現する方法論については、ファッションアパレル企業だけでなく、多くの小売り企業にとっても参考と成り得るのではないか。
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