「運輸連合」「交通税」とは何か 日本で定着させるために必要なこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/10 ページ)
国土交通省の「交通政策審議会 交通体系分科会 地域公共交通部会」は1月17日、「中間とりまとめ(素案)」を公開した。「関係者で合意した再構築方針に基づき、鉄道の維持と利便性確保」とあり、地方ローカル鉄道の維持に消極的な国も、地方ローカル鉄道を完全否定しているわけではないとわかる。
「運輸連合」という新キーワード
関西テレビの報道によると、従来の地方ローカル線協議会で見られなかった新しい方向性も提案されていた。兵庫県養父市から提起された「交通連合」だ。「沿線自治体が法人格レベルで規約を持った組織をつくり、自治体が同列に事業運営に関与できる方向で検討してほしい」という。豊岡市長も賛意を示している。「(詳細は決まっていないけれども)鉄道やバスなどの運送会社や自治体に加えて、利用者の立場でも交通連合に加わっていただきたい」と話した。
検討会に出席したJR西日本の兵庫支社長も賛意を示している。それは当然だ。交通連合はおそらくドイツ発祥の「Verkehrsverbund」の形態を指しているだろう。日本語では「運輸連合」と訳されている。運輸連合は「自治体などが地域交通会社をつくり、交通事業者に委託料を払う」という仕組みだ。つまり交通事業者の負担は小さい。地域交通会社に対しては主に自治体が出資するから、これも「覚悟」が必要である。
運輸連合については、交通経済・経営の専門誌『運輸と経済』に分かりやすい論文があった。詳細はこれらの資料を見ていただくとして、ここでは概略にとどめる。
【関連論文】ドイツの地域交通における運輸連合の展開とその意義(土方まりこ氏)(『運輸と経済』第70巻第8号)
【関連論文】運輸連合の概要と日本への示唆(渡邊亮氏)(『運輸と経済』第72巻第9号)
運輸連合は「地域の交通事業者が出資、協働する組織」であり、「異なる事業者間でも、1枚の乗車券で、便利に乗り継げる交通サービス」を目指してつくられた。これだけだとMaaSに似ている。日本に散在するMaaSではなく、ヘルシンキ発祥の「定額運賃を支払えば地域内の公共交通がすべて乗り放題」のMaaSだ。
運輸連合は65年にドイツのハンブルグで誕生した仕組みで、16年に始まったMaaSは「運輸連合にスマートフォンによるデジタルチケット、乗り換え検索機能を加えたもの」という解釈もできる。
運輸連合の特徴は、交通事業者の独立性を尊重しつつ「運賃収入はいったん運輸連合組合に吸い上げられたのち、各事業者の事情を考慮して公平に配分される」という仕組みだ。運賃とサービスで競争していた交通事業者が、なぜこんな仕組みで協働したか。それは競争相手がライバル会社ではなく、マイカーになったからだ。
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