「運輸連合」「交通税」とは何か 日本で定着させるために必要なこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/10 ページ)
国土交通省の「交通政策審議会 交通体系分科会 地域公共交通部会」は1月17日、「中間とりまとめ(素案)」を公開した。「関係者で合意した再構築方針に基づき、鉄道の維持と利便性確保」とあり、地方ローカル鉄道の維持に消極的な国も、地方ローカル鉄道を完全否定しているわけではないとわかる。
熊本県「共同経営推進室」は運輸連合に近い仕組み
日本で運輸連合に近い取り組みをしている都市がある。熊本市だ。公共交通利用者の減少傾向を受け、市営バスの効率化と市内路線再編のため、07年に市営バスを民営化し熊本都市バスを発足した。出資者はライバルともいえる九州産交バス、熊本電気鉄道、熊本バスだ。
熊本市中心部から郊外各地に拡散していく路線バスは、熊本市内で路線が重複していた。この重複区間で競争が起きると、同じ時刻にバスが何台も来て乗客の取り合いになる。旨味のある時間帯の本数は多いけれど、それ以外のバスが少ないため、利用者の待ち時間が長くなる。熊本市は、この効率の悪い重複区間のバスを整理して、運転士不足に対応しつつ、余剰のバスを末端区間の維持や延伸に振り向け、交通を維持したい。
このような「バス事業者同士の調整」は独占禁止法のカルテル規制に抵触する。しかし20年11月に「独占禁止法特例法」によって、公共交通企業間の共同行為が認められる方針が示された。
そこで、バス事業者共通の課題となっていた「深刻な運転士不足」「重複区間の効率化」を解消し「効率化による新規路線開設」を目指し、19年に「熊本におけるバス交通のあり方検討会」を発足させた。参加者は県内バス事業者5社の社長、熊本県と熊本市の部局長職だ。
「独占禁止法特例法」の施行の翌年、21年1月に九州産交バス、産交バス、熊本電気鉄道、熊本バス、熊本都市バスの5社が共同で「熊本地域乗合バス事業共同経営計画(案)」を発表し、21年3月に国土交通大臣の認可を得て、4月1日に「共同経営推進室」が発足した。
共同経営推進室はバス事業者が重複する4区間について、重複の見直し、待ち時間の平準化、2社共通の乗継ぎ割引、路線の延伸を実施した。ただし運賃はそのまま各事業者の収入となる。だからこそ「不公平にならないようにダイヤを調整」したわけだ。
交通経済研究所の遠藤俊太郎氏は、21年開催の熊本運輸連合勉強会で「共同経営推進室は広義の運輸連合といえる」という見解を示している(リンク)。
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