「運輸連合」「交通税」とは何か 日本で定着させるために必要なこと:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(9/10 ページ)
国土交通省の「交通政策審議会 交通体系分科会 地域公共交通部会」は1月17日、「中間とりまとめ(素案)」を公開した。「関係者で合意した再構築方針に基づき、鉄道の維持と利便性確保」とあり、地方ローカル鉄道の維持に消極的な国も、地方ローカル鉄道を完全否定しているわけではないとわかる。
「交通税」の可能性が見えた、しかし都市に限る?
「熊本県内バス・電車無料の日」は大胆な取り組みとして報道された。そのなかでも注目すべきは「熊本県内の路線バス運行コストの総額を県内の総世帯数で割ると、1世帯当たり1000円/月になる」だ。つまり、1世帯当たりもれなく1000円を負担すれば、熊本県の路線バスは通年で無料化できる。
1カ月1000円は通学定期を負担している世帯には大幅な減額となる。通勤手当を出す企業にとっても朗報だ。課題は「公共交通を使わない人が負担に納得できるか」。普段マイカーに乗る人だったら「パークアンドライドができる駅や停留所があるなら、市の中心部は公共交通に乗ろう。せっかく課金したんだし」と考えてくれるかもしれない。
この交通税の導入を目指す自治体もある。滋賀県だ。琵琶湖南岸の都市は京阪神のベッドタウンとして発展し、人口の増加傾向もみられる。しかしJR西日本は琵琶湖線(京都〜長浜間)の減便を続けた。このままではベッドタウンとして他の地域との競争に負けてしまう。さらに喫緊の課題として、近江鉄道の存廃問題もあった。近江鉄道は17年に存続困難として自治体に協議を申し入れた。その結果、鉄道存続とバス転換の費用を比較して、上下分離方式による存続を決定している。滋賀県は維持管理費用の約半分を負担する。
滋賀県知事の三日月大造氏は「滋賀県南部の交通だけ県が肩入れすることは不公平ではないか」と考えた。そこで県内全地域の公共交通維持のため、滋賀県税制審議会に対して「地域公共交通を支えるための税制の導入可能性について」を諮問した。
22年4月20日に出された答申は「全県において交通維持を利用者負担で維持することは困難、税の投入が妥当」だった。徴税方法は「超過課税方式」を推している。超課税方式は既存の税項目に上乗せする方法で、県民税や法人事業税が考えられるという。これに対して、宿泊税などの「法定外税方式(新税設置)」は徴税コストがかさむため否定的だ。
法人に対する課税は、「モビリティ負担金」という名目でフランスに先例があり、従業員11人以上の公的組織や民間企業に対し、従業員の給与をもとに算出される。これは受益者負担の仕組みだ。
滋賀県にはすでに、県民税に上乗せする「琵琶湖森林づくり県民税」がある。個人に対して年間800円、法人は資本金により2200〜8万8000円だ。この仕組みに理解が得られているためか、滋賀県のアンケートでは「県民の約6割が新たな費用負担を容認」という結果が出た。しかし「交通税」という文言がないところが気になるし、「新たな費用負担」の主体も交通税か自治体負担か明確ではない。今後、「直接負担」を明確にしたアンケートが望まれる。
アンケートは、無作為に抽出した県内各市町350世帯ずつ計6650世帯に、Webサイトを使って実施。回答は約3000件で、回収率は約40%だった。このアンケートのなかに「公共交通が必要」という回答が9割あったけれども、半数以上が「満足ではない」と回答していることも留意する必要がある。満足度を高めれば交通税の賛同も増えるだろう。
また、アンケートでは税額について触れていないことも考慮したい。年間800円ならば容認できても、熊本市の試算のような月額1000円は認められるか。意見聴取の深度化も必要だ。
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