「冷蔵庫に紙を貼らないで」 岩手・北上市の“常識”を変えるプロジェクト:保育園をDXで(2/5 ページ)
岩手県北上市の「保育園DX」プロジェクト。連絡帳などをデジタル化したが、その効果は業務効率化にとどまらない。現場の意識改革や市の他部門への広がりにもつながっている。民間出身のDX推進リーダーは、子育て世代から“常識”を変えていくことが狙いだと話す。
職員も保護者も「変化」を体感できる
大塚氏は日本アイ・ビー・エム(IBM)出身。企業向けDX提案やマネジメントで培ってきた経験を生かそうと、北上市のDX推進リーダーの職に応募した。
縁のない北上市の公募に目をとめたのは、DXへの「覚悟」を感じたからだという。「コンサルティング会社に依頼したり、非常勤職員を採用したりするやり方もありますが、北上市は常勤職員としてDX人材を募集していました。市民と同じ目線で、意識改革も含めて取り組めると考えて応募しました」と振り返る。
大塚氏の着任後、最初に具体的なプロジェクトとして取り組んだのが、保育園DXだ。なぜ保育なのか。もともとは、市の療育センターから相談を受けたことがきっかけだった。児童発達支援の現場の負担は増しており、負担を軽減して利用者支援向上につなげることが大きな課題だという。
そんなとき、大塚氏がDXソリューションの展示会で目にしたのが、ユニファ(東京都千代田区)が提供する保育ICTサービス「ルクミ―」だ。出欠管理や連絡帳、おたより配信など、保育に必要な機能が多くそろっており、保護者のスマートフォンや施設のタブレット端末などにアプリをダウンロードすることで利用できる。
療育センターの負担を減らす第一歩として、まずは出欠管理を簡単にできれば……との思いから持ち帰ったが、いざ導入の検討に入ると「保育園でも使えるのでは」と思い至った。
デジタル化に対して、保育園の各園長と現場の職員らの反応は上々。さらに非接触で登降園や連絡帳対応が可能なことからコロナ対策にもつながり、すぐに導入の検討に入ることができた。
また、ルクミ―導入の狙いは保護者側の“体験”にもある。大塚氏が公立保育園を実際に訪問して登園風景を観察すると、職員だけでなく保護者の様子も見えてきた。当時、登園や降園は保護者が紙に記入する方法で記録していた。一つ一つの作業に時間がかかるわけではないが、忙しい朝には煩雑だ。スマートフォンのアプリで完結できれば、保護者側もデジタル化による変化を体感できる。
「自治体DXというと、役所の業務効率化のイメージが強いですが、なかなか市民に伝わりづらい。DX推進のきっかけとして、住民目線で『変わった』と思ってもらえる取り組みが必要だと考えました」と大塚氏は話す。
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