アマゾンvs.ウォルマート──小売り王者が次に狙う「巨大市場」とは?:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/4 ページ)
アマゾンやウォルマートが狙う、次なる「巨大市場」がヘルスケアビジネスだ。なぜ、リテール大手が医療ビジネスに参入するのか? その狙いと、アマゾン・ウォルマートのそれぞれの戦略とは──。
アマゾンが買収したOne Medicalとはどんな企業か?
One Medicalは、07年に内科医のTom Lee(医学博士)によって設立されました。同社は、高品質でアクセスしやすく、患者に合わせたケアを提供することを使命とし、プライマリーケアの医療事業としてスタートした会社です。
米国のプライマリーケア市場でOne Medicalが競合優位性を発揮している背景にはいくつもの要因がありますが、そのうち5つをご紹介します。
(1)利便性
One Medicalが運営する125以上にも及ぶクリニックは、診療時間の延長やオンライン予約など、患者にとってアクセスしやすく便利なように設計されています。
(2)パーソナルなケア
One Medicalの医師とスタッフは、患者に合わせたケアを提供することに重点を置いており、電子カルテシステムにより、医療従事者間の情報共有が容易にできるようになっています。
(3)テクノロジーの活用
One Medicalは、医療記録へのオンラインアクセス、遠隔医療サービス、医師とのコミュニケーションや健康情報の追跡を容易にするモバイルアプリ、AI活用、チャットボット導入など、患者体験を向上させるためのテクノロジーを駆使しています。
例えば、同社の電子カルテシステムでは、機械学習アルゴリズムを用いて患者データを分析し、リスクの高い患者を特定しているとのこと。これにより、ケアチームはこれらの患者と積極的にコミュニケーションを取り、サポートとフォローアップケアを提供できるといいます。
(4)保険適用
One Medicalは、複数の保険会社と契約しており、患者は病院での自己負担なしで治療を受けることができます。
(5)紹介制度
One Medicalの医師は、必要に応じて患者を専門医に紹介することができるため、患者はニーズに応じた最適な治療を受けることができます。
アマゾンとのシナジーが期待されるのは
こうした特徴のうち、アマゾンとの親和性という観点から、特に3つ目の「テクノロジー活用」が注目されています。
One Medicalは、独自の電子カルテシステムを導入しており、これにより約80万人分の医療データを確保しているため、まずデータ活用という点でアマゾンと親和性が高いと考えられています。また、医療現場において重要な要素として「処方箋」がありますが、薬を患者へ届ける技術やノウハウに関しても、Amazonの持つ物流システムが活用できるでしょう。
そして、Amazonプライムとうまく組み合わせることによって、プライマリーケアをサービスの一環としてプライムユーザーに提供することも可能となります。これにより、新規のプライム会員の獲得にもつながるでしょう。このように、アマゾンとOne Medicalは非常に相性がよく、さまざまなシナジーが生み出せる可能性があるのです。
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