「紀土」を一流ブランドに押し上げた平和酒造 “最適解”でない渋谷で酒イベントを開催する理由:山本典正社長に聞く(1/3 ページ)
平和酒造は4月8日と9日、日本全国の酒蔵・クラフトサケ醸造所26社が「MIYASHITA PARK」(東京・渋谷)に集結する「SAKE PARK(仮称)」を開催する。
日本酒は斜陽産業だと言われている。
国税庁「酒のしおり」によれば、日本酒の課税移出数量(酒蔵から1年間に出荷された酒類の数量)は1973年度のピーク時(177万キロリットル)から右肩下がり。2020年度は3割以下の41万キロリットルまで減少している。
総務省の「家計調査」でも、日本酒の購入頻度・支出金額・購入数量ともに60〜69歳が一番多く、 次に70歳以上と「オヤジの酒」のイメージが根強い。今後、これまで消費の中心だった世代が退出することで、日本酒への支出金額や購入数量などのさらなる減少が見込まれている。
一方、日本酒を購入する上での平均価格では「30〜39歳」が最も高い。なぜなのか。それは、純米酒や吟醸酒と呼ばれるプレミアム日本酒が若い層に好評だからだ。
事実、純米酒や吟醸酒といった「特定名称酒」の課税移出数量は10年度の8.1万キロリットルから20年度の9.8万キロリットルと20%も増えている。
加えて、海外の日本食ブームもあって、日本酒の海外出荷は右肩上がりだ。全国約1700の酒蔵(日本酒、本格焼酎・泡盛、本みりん)が所属する日本酒造組合中央会は、22年度の日本酒輸出総額が474.92億円に達し、13年連続で前年を上回る金額に。数量も3万5895キロリットルと過去最高となったことを発表している(財務省貿易統計)。
若い世代の取り込みや海外輸出の拡大が、日本酒業界全体の業績V字回復に必要なのがうかがえる。そういった背景がある中で、「紀土」で知られる和歌山県海南市の平和酒造は、4月8日と9日に日本全国の酒蔵・クラフトサケ醸造所26社が「MIYASHITA PARK」(東京・渋谷)に集結するお酒のイベント「SAKE PARK(仮称)」を開催する。日本酒を通して国籍、性別、年代を超えて、日本の食文化、ものづくりを伝え、広めていくことが目的だ。
同イベントは、酒チケット1枚もしくは複数枚で酒1杯と交換できるようにし、日本の伝統食品である発酵食品、有名レストランのシェフが提供するスペシャルフードとのペアリングも楽しめるようにした。イベントをより多くの人に知ってもらうため、応援購入サービス「Makuake」で先行チケットを販売する。
これまでの日本酒試飲イベントは、飲食店や酒屋、日本酒好きのコアな客層に向けたもので、ホテルや公民館など室内で開催されることが多かった。しかし、同イベント開催において、平和酒造・山本典正社長が「誰の目にも触れ、誰もが気軽に立ち寄れるオープンな場所」かつ「渋谷」を選んだのは、日本酒の文化を発信したいという狙いがあった。「日本酒はキラーコンテンツにできる」と話す山本典正氏に真意を聞いた。
山本典正(やまもと・のりまさ) 平和酒造社長。1978年、和歌山県に生まれ。京都大学経済学部を卒業後、東京のベンチャー企業を経て実家の酒蔵に入る。大手酒造メーカーからの委託生産や廉価な紙パック酒に依存していた収益構造に危機感を覚え、日本酒業界にあっては他に類をみない革新的組織づくりをするとともに、自社ブランドの開発・販売に力を尽くす。一方で、全国の若手蔵元と協力のもと、日本酒試飲会「若手の夜明け」を立ち上げ、2011年から代表をつとめる。代表的な銘柄は「紀土」と「鶴梅」。「紀土 無量山 純米吟醸」はIWC(インターナショナルワインチャレンジ)2020で「SAKE部門(清酒部門)」の最高賞「Champion Sake(チャンピオン・サケ)」を受ける。2022年6月、東京・兜町にどぶろく醸造所&バー「平和どぶろく兜町醸造所」をオープン。また、ベトナム最大規模のクラフトビールメーカー「East West Brewing Co.」の日本酒蔵設立プロジェクト(ホーチミン市)に醸造技術提供の形で参画している。近著に『個が立つ組織 平和酒造4代目が考える幸福度倍増の低成長モデル』(日経BP)
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