「紀土」を一流ブランドに押し上げた平和酒造 “最適解”でない渋谷で酒イベントを開催する理由:山本典正社長に聞く(2/3 ページ)
平和酒造は4月8日と9日、日本全国の酒蔵・クラフトサケ醸造所26社が「MIYASHITA PARK」(東京・渋谷)に集結する「SAKE PARK(仮称)」を開催する。
最適解が必ずしも“成功”ではない
――応援購入サービス「Makuake」を利用するのは、22年6月に東京・兜町にオープンしたどぶろく醸造所&バー「平和どぶろく兜町醸造所」以来です。やはり、PRの部分で成果があったからですか?
「Makuake」さんでは、日本酒のプロジェクトをあまり扱っていなかったんですが、「平和どぶろく兜町醸造所」で初めて利用させていただきました。その時は、周知されるまでの初速が速く、認知度が飛躍的に上がりました。プラスαで営業の方が親身に相談に乗ってくれ、一緒にアイデアを練ってくれたので、それこそPRの部分をアウトソーシングするぐらいの価値ある宣伝効果が得られていると感じていました。
今回の「SAKE PARK(仮称)」については、実験的な取り組みとしてやらせていただいて、どういう波及効果があるのかを探っている部分もあります。若い方を初めとする新しい飲み手を流入させたい狙いがあるので、そういう意味では「Makuake」さんのプラットフォームは20〜30代のユーザーが非常に多いので親和性が高い。「面白そうなイベントだから、ちょっとのぞいてみようかな」と、軽いノリで参加しやすいのではないかと考えています。
――「SAKE PARK(仮称)」の前身となるイベント「AOYAMA SAKE FLEA」も渋谷で開催されました。渋谷を選んだのは情報発信としてのポテンシャルの高さを感じたからですか?
やはり渋谷は新しい情報が生まれていく街で、若者の聖地みたいな部分もありますよね。IT産業も盛んなのでカルチャーの発信力も高い。
ある程度コロナが収束して、渋谷に足を運ぶようになって驚いたのが、スクランブル交差点で写真や動画を撮影している海外の方がすごく多いことです。六本木とはまた違って、「渋谷=日本」だと認知されるようになったのか、海外の方がカルチャーを求めて集まる街に変わりつつあって、多様性もあり面白い街だと感じています。コロナ禍でこの3年間ほとんど日本酒イベントを開催できませんでした。実質4年ぶりなのでリスタートですね。
――「SAKE PARK(仮称)」で出品されている日本酒は、高価格帯も多いのが印象的でした。日本酒業界ではリーズナブルな価格帯、あるいは飲み放題の形態が主流ですが、どのような考えがあるのでしょうか?
値段についてはバランスが大事だと思っています。各酒蔵ともに、エントリーモデルの価格は比較的安く押さえています。公園という開けた場所で開催するからこそ、間口の広いイベントにしたかったのです。立ち寄った方がチケット1枚くらいから試しに飲める酒から、酒好きな方に至っては極端な話、チケット10枚ぐらいかけて飲みたい酒まで提案したいです。
日本酒イベントは、「MIYASHITA PARK」のような、開けた、おしゃれな場所で開催されるイメージがなかったと思います。これまで通り、日本酒の値段を下げるか、代わりに会場のクオリティーを下げ、飲み手としてはファンの方が確実に来てくれることで採算が取れる形にするのも一つの手です。ただ、従来通りだと、日本酒が若い方や海外の方といった新しい層に広まらないのです。
――今回の取り組みとしては、若い層や海外層に向けた市場開拓への期待感がありますか?
そうですね。やっぱり若い方、海外の方への発信はすごく大切にしていきたいと思っています。今は人口減や経済のマイナス成長など向かい風が強く、酒離れが進んでいます。日本酒を生活に組み込んでいる方はかなり少ないですし、そもそもお酒を飲まない方も増えていますね。
今の日本酒業界は内向きというか、50〜60代の日本人男性という確実に売れる市場だけを狙っている所が非常に多いです。確かに最適解ではあるのですが、いわゆるレッドオーシャン戦略であり、過疎化していく市場でのパイの奪い合いです。そして、側から現状を見ている20〜30代の若い層は、そんなお酒を飲みたいとは思わないでしょう。
正直、市場改革としては、20〜30代、海外の方は「狙いにくい」んですよ。メインの購買層なら「こうすれば来てくれるんじゃないか」「これをしたら喜んでくれるんじゃないか」と予測がつきやすいのに対し、人数も少ないし訴求の仕方も手探りですから。でも、そこを継続的にやっていかないと日本酒業界のためにはならない。
既にある顧客層だけではなくて、新たな顧客層をターゲットにしながらやっていくのは、企業としては非常にまっとうなことです。
――最適解は必ずしも企業としての正解、つまり成功につながるわけではないということですか?
そうですね。やはり違うゾーンにも投げ込まないといけないんですが、日本酒業界はある種マニュアルが支えている伝統産業なので、新しいチャレンジは批判というか、冷ややかな目で見られがちです。そういった反応があるたびに、日本酒業界の停滞を感じてしまいます。
だからこそ、「SAKE PARK(仮称)」に関しては、「これからの新しい飲み手に向けている」というコンセプトもあります。「MIYASHITA PARK」という誰にとっても分かりやすい場所で、日本酒イベントが開催されることがほとんどなかったので、主催することに大きな意味があると思います。
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