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ファストフード店のメニューが“見づらく”作られている、納得の理由行動経済学で読み解く(1/3 ページ)

ファストフード店のメニュー表に隠されたおもしろいマーケティングがある。消費者の購買選択が、実は企業にそっと誘導された結果によるものかもしれないというのだ。東京大学大学院で行動経済学を教える教授に話を聞いたところ……。

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 「ファストフード店で注文する際に、自分自身で食べたいものを決めている自信はありますか?」――そんなことを唐突に聞かれたら、おそらく大半の人が「そんなこと、考えたことすらなかった」と回答するだろう。

 では、なぜ今回このような問いを投げたのか。それは、消費者がファストフード店で行う購買選択が、実は企業にそっと誘導された結果によるものかもしれないからだ。


ファストフード店での注文は、企業にそっと誘導された結果によるものかもしれないとしたら?(写真は本文とは関係ありません、提供:ゲッティイメージズより)

 東京大学大学院で行動経済学を教える阿部誠教授はファストフード店のメニュー選びにおいて、消費者は「企業が購入してほしい商品」を無意識的に選択している可能性があると指摘する。なぜそのような事象が発生するのか? ファストフードのメニュー表に張り巡らされた“仕掛け”を行動経済学の観点から読み解いていこう。

意図的に設計された「読みづらいメニュー表」

 無意識的な購買選択を引き起こす要因として阿部氏は「ファストフード店のメニュー表は、企業が売りたい商品を販売しやすくする工夫が凝らされています」と話す。どういうことか。阿部氏によると、各社は単品商品など単価が安いものを探すには見づらく、一方でセット商品など単価が高いものが目に付くようなメニュー表にしているのだという。

 実際にいくつかのファストフード店を回ると、単品商品が見つかりにくく、一方でセット商品が目立つメニュー仕様になっていると感じた。

 本来は自分が頼みたいメニューや予算を優先すべきなのに、メニュー表に誘導されてそれとは反する非合理的な意思決定をしてしまうのはなぜなのだろうか?

 背景には、ファストフード店では直感的に食べたいものを決める「ヒューリスティック処理」が起こりやすいことがあると阿部氏は解説する。

 人間には主に2つの情報処理の方法がある。一つはヒューリスティック処理といい、直感的に「この選択肢が良さそうだ」と決めるやり方だ。情報処理や意思決定を単純化することで、時間短縮や労力の削減につながる。

 もう一つが、システマティック処理だ。ヒューリスティック処理とは対照的で、選択肢ごとの効用を細かく整理し、「どれが一番自分に良いのか?」を考える方法だ。時間はかかるが、個々人の考えに従った正確な答えを導くことができる。入試や商談など、自分の人生や将来に強い影響を及ぼす事柄にはシステマティック処理が適用される傾向にある。


ヒューリスティック処理とシステマティック処理の違いは?(画像:東京大学「淡青」より)

 どちらの処理を選択するかは「その事柄がどれだけ重要で、かつ決断に労力をかけたいか」で決まるという。全ての場面においてシステマティックに最適な判断を下せるのが理想的ではあるものの、時間や労力などわれわれの資源には限りがあるため、適宜これらの処理を使い分けている。

 実際にファストフード店の場合でも、なんとなく来店している人はヒューリスティック処理を実行する一方、来店が楽しみで仕方がなかった人やコストパフォーマンスや栄養バランスなどに強いこだわりを持つ人はシステマティック処理を実行する可能性が高い。

 「昼休憩を有意義に使うために、ファストフードを利用するビジネスパーソンもいるでしょう。その場合、少ない労力で素早く注文する方法としてヒューリスティック処理を行う傾向にあります。もし注文に失敗したとしても金銭的な被害が小さいので『次回、美味しいものが食べられればいいや』と考えるようになります」(阿部氏)

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