ファストフード店のメニューが“見づらく”作られている、納得の理由:行動経済学で読み解く(3/3 ページ)
ファストフード店のメニュー表に隠されたおもしろいマーケティングがある。消費者の購買選択が、実は企業にそっと誘導された結果によるものかもしれないというのだ。東京大学大学院で行動経済学を教える教授に話を聞いたところ……。
消費者に見やすいメニューとは?
ここまでの話から、企業は消費者に商品を購入してもらうため、さまざまな仕掛けをメニュー表に凝らしていることが分かった。では逆に、消費者にとって「ヒューリスティックな処理が起きにくいメニュー表」、つまり消費者にとって見やすいメニュー表とはどのような形式なのだろうか。
「理想的なメニュー表は、各商品の特性や機能などの属性を比較し、商品属性を一覧表にまとめたものです。これは、家電量販店などでよく利用されている形式です。比較表なら、情報処理の負荷をより低く抑えられるので、初めて見た人でもすぐに内容を理解し、合理的に処理できるでしょう」(阿部氏)
ただし、ここまでの話を考えると、消費者にとって見やすいメニュー表は、企業の売り上げを毀損(きそん)するものになりかねない。この点に関して、阿部氏は次のように指摘する。
「消費者に最適化されたメニューを提示することで、消費者は自身の予算内でより自分にふさわしい商品やサービスを選択できるようになります。短期的には企業の利益が減少したとしても、結果的に顧客満足度の向上、ひいては企業に長期的なメリットをもたらすこともあるでしょう」(阿部氏)
ファストフードのメニューには私たちが思いもよらないような工夫がなされていた。ただし前述したように、全ての消費者が企業の術中にハマるわけではない。クーポンが適用できるメニューしか注文しない人、単品しか注文しない人、その時々でセットとサイドの組み合わせを決める人など……ヒューリスティック処理からシステマティック処理まで、人によって考え方は変わるだろう。
ここまでファストフードのメニュー戦略を見てきたが、街の飲食店のランチメニューを観察していると「Aセット」「Bセット」「Cセット」など3つの価格帯に分けられているのを目にする。
それは「松竹梅の法則」と呼ばれ、商品を3つの価格帯に分けて展開した場合、多くの人が真ん中の価格帯の商品を購入する傾向にあるという法則だ。なので、一番売りたい商品を中間の価格帯に設定することが好ましいとされている。
ランチ一つとってもさまざまなマーケティング戦略を学ぶことができる。自社ビジネスに生かせるようなヒントが意外と身近にゴロゴロ転がっているかもしれない。
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