「物価の優等生」は死語に!? エッグショック後も、価格が高止まりしそうな理由:長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/5 ページ)
卵の価格が高騰している。鳥インフルエンザやロシア・ウクライナ戦争の影響だが、エッグショック後も価格が高止まりしそうな理由とは?
最大手イセ食品の破綻
卵の流通に関しては、22年3月に会社更生法の手続きに入った業界最大手のイセ食品が破綻した影響も出ている。
イセ食品は、「森のたまご」ブランドが著名だが、種鶏や親鶏の育成から採卵、パッキング、配送に至るまでの全工程を自社で一貫して行う体制を構築してきた。13年には、豊田通商と業務提携して卵の国内シェア25%を目指した。破綻時には、約1割を握っていたとされる。
同社は米国にも進出して、鶏卵の有力企業にのし上がるなど、創業家の伊勢彦信会長は世界の卵王でもあった。ところが近年、毎年のようにやってくる高病原性鳥インフルエンザの流行が直接業績に響いていた。
動物をもっと快適な環境で飼うべきという、近年の動物福祉の考え方に基づいて、鶏舎の改良にも取り組まなくてはならず、それにかかる経費も業績を圧迫していたという。
負債総額は453億円にも上る。18年には、伊勢氏が個人出資した企業が大阪のスーパー玉出を買収して小売まで垂直統合した企業体を目指しているように見えた。志半ばで、伊勢氏はイセ食品の会長を退いている。
イセ食品では、中間流通を通さずに安価な価格で卵を販売し、スーパーの棚を占拠していく戦略を取っていた。今はもうからなくても、まずスーパーの棚を可能な限り押さえて、価格競争について行けなくなった同業他社が倒れると、そこを自社のシェアで埋めて行く。最終的に棚を独占すれば、安定した利益が半永久的に得られると踏んでいた。
卵が長らく物価の優等生であった背景には、イセ食品の戦略があったのだ。イセ食品との対抗上、他の養鶏農家は卵の価格を上げられず、薄利に甘んじていた。
しかし、イセ食品が赤字を垂れ流してシェア拡大を狙う戦略には無理があったということなのだろう。重しが外れて、卵は適正な価格に調整されつつある段階にある、というべきかもしれない。
養鶏農家が嫌う「物価の優等生」
このような状況から、卵を使うメーカー、飲食店には多大な影響が出ている。
キユーピーは、450グラムの「キユーピー マヨネーズ」を現状では参考小売価格475円で販売しているが、4月1日から520円に値上げする。卵の価格高騰だけでなく、ロシア・ウクライナ戦争の影響が大きい植物油や穀類の価格も上昇しており、値上げせざるを得なくなった。
同社ではマヨネーズだけでなく、ゆで卵、厚焼き卵を製造している。また、液卵を菓子やパンのメーカーなどに販売している。これらの卵加工品をこれまで通り出荷するのが困難になっている。
「こう何度も鳥インフルエンザに見舞われたのでは、養鶏業のリスクが高過ぎる。円安もあって餌になる穀物の価格も上がっている。生産者のやる気が削がれているのが心配」(広報担当者)と、同社では養鶏農家のモチベーション低下を懸念している。
同社に限らず、卵加工品を扱うメーカーでは、「養鶏農家に『卵は物価の優等生だ』といったら良い顔をされない。これまでの卵の価格は安すぎた。生産者の犠牲の上に成り立ってきた」という認識だった。卵の価格を安くしすぎたしわ寄せが、高病原性鳥インフルエンザの大流行で露呈したと口をそろえる。
恐らく、高病原性鳥インフルエンザが収まっても、卵の価格は高止まりするだろう。従来の1.5倍くらいに落ち着くのではないかといった意見が多い。
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