シリコンバレー銀行(SVB)破綻の衝撃! 米当局の“超法規的措置”が悪手といえるワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻が波紋を呼んでいるが、果たしていったい何が問題なのか。あまり語られていない「格差」の観点から解説する。
米国では、FDIC(連邦預金保険公社)が預金補償を実行する。対象は、普通預金、貯蓄預金などに及び、補償額は25万ドルと日本よりも補償額が大きい。しかし、この補償額は日本では本来全額が保証される決済用預金などの金額も合わせた部分である点で大きな違いがある。
今回問題となったSVBのように、ベンチャー投資による資金調達が主流の銀行は、各法人顧客がベンチャーキャピタルや投資家から得た数十億円、数百億円単位の資金を預けることも珍しくない。日本では、そのような多額の出資を得た場合に預金が無制限に補償される当座預金に預けてしまえば破綻のリスクとはほぼ無縁でいられる。
しかし、米国の預金保険制度下では、各金融機関に25万ドルを分割することでしか実効的に預金を防衛する方法がない。そのため、富裕層や法人の顧客にとって米国の預金保険制度は数十から数百の口座に預金を分散させなければ資産を完全に防衛できないという意味で窮屈な制度であったといえるだろう。
このように考えると、米国の預金者は銀行破綻というリスクに対応する選択肢が少なく、銀行破綻時に預金を保護する一定の合理性はあるといえるだろう。しかし、今回のような政治的な決断には、当然メリットとデメリットが存在する。
預金を全額補償するという米国当局の決断は、多くの人々にとって歓迎されたようにも見えるが、長い目で見た副作用にも注意したい。
全額補償は格差社会を助長し、既得権益を保護する?
全額補償されることで、銀行破綻時の不安が軽減され、金融システム全体の安定が維持されたり、預金者の金融機関への信頼を維持できたりするため、銀行に対する取り付け騒ぎのリスクは低下する。
しかし、預金保険の限度額を超えて全額補償されることで、金融機関は「どうせ運用で大損しても当局が預金者を守ってくれる」とリスクを軽視した投資判断を行ったり、不適切な経営判断を下したりする可能性が高まる。また、預金者も「預金」という金融商品のリスクを過小評価する傾向が強まることが考えられる。
全額補償は富裕層のような大口預金者に対して手厚い補償がなされる形となり、社会的な公平性が損なわれる可能性もある。そればかりか、預金保険制度や政府の財政負担が増大することが予想される。今後も連鎖的な破綻が発生していけば、一般国民に対して本来充てられるべき予算や政策が後回しとなってしまい、皺寄せが富裕層から一般人へ転嫁される危険性もある。
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