シリコンバレー銀行(SVB)破綻の衝撃! 米当局の“超法規的措置”が悪手といえるワケ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻が波紋を呼んでいるが、果たしていったい何が問題なのか。あまり語られていない「格差」の観点から解説する。
経済において景気後退は最も避けるべきイベントと思われがちだが、一方で資産所得の再分配を促進する効果もある。そのため、長期的な観点からは、富裕層優遇になりすぎないよう、適切なバランスが重要だ。
金融ショックや不景気といったイベントは、経済全体が縮小し、企業の収益が減少することで、高所得者や資産家の所得や資産価値が下落する。一方で、若い世代や低所得者層のように資産による収入が少ない層は、相対的に影響を受けにくく、むしろ長期投資の観点では資産を安く購入できるようになることから、格差が縮小しやすい環境となる。
また、金融ショックや不景気がもたらす市場の混乱は、企業や業界に再編やイノベーションを促す機会を与え、古いビジネスモデルや既得権益が破壊されやすくなる。これにより、若い世代が新しいビジネスチャンスやキャリアパスを見つけやすくなるといえるだろう。
他にも、投機的な住宅価格を下落させる効果が見込まれる。そうすると、若い世代が住宅を購入しやすくなり、市中金利も低下することで無理せずに住宅ローンを組めるようになる。これらを踏まえると、一概に金融危機が「悪」と決めつけてしまうのも考えものだ。
確かに失業率の上昇や雇用の不安定化に伴う影響を過小評価することはできず、デメリットも多く存在する。とはいえ、米当局はショックを過度に恐れ、預金保険の制度を実質的に無視してまで、全額補償という富裕層や資産家を過剰に保護する決断に傾く合理性はあったといえるのだろうか。
銀行破綻は経済に深刻な影響を及ぼす。預金保険制度がそのリスクを軽減する役割を果たす。しかし、本件の全額補償は、預金保険制度そのものを形骸化させるリスクがある。平時は高い金利の恩恵を享受しておきながら、その高い金利に伴うリスクが発現した際に全額を損失補填(ほてん)することの妥当性については、事後の影響も観測した上で厳密に検証されるべきだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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