「あの会社なら、パワハラくらいあるだろう」って本気? 見捨てられる、命を削る人々:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
大手不動産企業の役員が起こしたとされるパワハラ事件について「あの会社なら、あるだろうね」「不動産業界はどこもこんな感じ」といったコメントが相次いだ。こうした周囲の視線がはらむ危険性、そして日本からパワハラが減らない理由とは?
「辞めたら?」「お前、辞めたら?」「クソ弱すぎる」
ものすごい勢いでまくし立てた次の瞬間、「ガシャン!」と大きな音が鳴った。
──これは先週、週刊文春が報じた大手不動産企業のグループ会社の会議中にあったとされるパワハラの一部です。
社内記録用として録音された音声がグループ本体の関係者に渡り、「あまりにひどい」と判断され、同誌の編集部に情報提供されたとのこと。社員に暴言を吐き、暴力まがいの行為に及んだのはグループ会社の社長で、本体の執行役員も務める40代の男性だそうです。
この記事が公開されるやいなや、SNSで多くの人が反応し、記事は拡散されました。
……と、ここまではいつも通りです。
今回驚いたのは、件の内容が「いまだにこんなことを堂々とやっている社長がいるのか?」と耳を疑うような卑劣なものだったのに、「あの会社なら、あるだろうね〜」的コメントが相次いでいたことです。
「あの会社・業界なら、パワハラくらいあるだろう」
「普通にありそう」「ありがちすぎて驚かない」「むしろしてない方がおかしい」「あそこならパワハラぐらいあると社会が認めている」「社員も金稼ぎたくて入っているんだから」「不動産業界はどこもこんな感じ」など……。「株価はほぼ無風」と同社の株価チャートを添付した投稿も多く見られました。
報道を受けて、以前、同社の朝礼をテレビ番組が取り上げた時の映像も拡散されています。日本人が好きな精神論で「必死で頑張ればなんとかなる!」と言わんばかりに社員を鼓舞し、「頑張ればなんとなかなる」「やる気があれば苦しくない」と社員が身を粉にして働くことを推奨するような様子が映っていました。
同社は不動産業界で急成長を遂げた企業です。上場企業でもあります。不動産業界を代表する大手です。
「あの会社なら、あるだろうね〜」というコメントの裏には、「競争に勝つにはパワハラと言われるくらいの圧が必要でしょ?」「入社した社員だって厳しいノルマがあることくらい知っているでしょ?」という考えがある。つまり、パワハラの容認です。
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