平気で「眠らない」日本人が知らない、睡眠不足がもたらす残念な結果:働き方の「今」を知る(3/6 ページ)
日本人の睡眠時間は短すぎる。睡眠不足は、従業員と企業にどのような悪影響を及ぼすのか。なぜ、勤務間インターバルは浸透しないのか。睡眠と働き方を巡る現状を整理する。
十分な睡眠がもたらすメリット
一方で、十分な睡眠を確保することによる効果も検証されている。
(1)平均睡眠時間が上位の企業ほど、利益率が高い
慶應義塾大学・山本勲教授の研究によると、17〜21年にかけて、上場企業勤務の正社員約1万人と、上場企業500〜700社に対して調査したところ、「平均睡眠時間が上位の企業ほど売上高利益率(ROS)が高く、2年後にもその傾向が続いていた」ことが判明している。
(2)勤務間インターバルの確保が、満足度の向上、離職率の低下につながる
労働環境改善コンサルティングを手掛けるワーク・ライフバランス社の調査によると、勤務間インターバル制度を導入したことで、「有休取得率向上や基本給・賞与の増額などの他の施策と比較しても、従業員満足度が向上した割合(64.3%)および離職率の低下(35.7%)に効果的である」との結果が明らかになっている。
「世界で一番寝ない国」の日本 国家としてすべき対策
このように、睡眠不足には大きなリスクがあるうえ、睡眠時間と労働生産性には相関関係があることが、いくつもの研究で明らかになっている。実際、平均睡眠時間が長い国ほど、国民一人あたりのGDPが高いことは一目瞭然なのだ(参考記事)。
そのうえでわが国を振り返ってみよう。OECD(経済協力開発機構)が21年に発表したデータによると、日本人の平均睡眠時間は「7時間22分」で加盟国中最下位。OECD平均より1時間も少ないとの結果となった。日本は世界で一番寝ていない国なのだ。(朝日新聞「日本は世界で一番寝ていない国」睡眠学会理事長が語る睡眠の大切さ)
そして、同年度におけるわが国の一人当たり労働生産性は8万1510ドル。OECD加盟38カ国中29位であり、ポーランドやハンガリーといった東欧諸国や、ニュージーランド、ポルトガルとほぼ同水準。西欧諸国では労働生産性水準が比較的低いとされる英国やスペインより2割近く低い水準であり、順位でみても、1970年以降で最も低いというありさまだ(日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」)。
従前は、「労働時間が短くなると、そのぶん仕事に割く時間も減るから、労働生産性は低くなる」と思われていたフシがある。しかし実際は真逆であり、「睡眠時間が少ないが故に心身に不調を来し、結果的に労働生産性も悪くなる」のだ。
すなわち「十分な睡眠」は、事故や過労死、メンタル疾患や認知症の発生を抑制し、パワハラを防ぎ、従業員満足度は向上、離職率は減少し、一国のGDPを押し上げる効果まで見込める。まさに、国家戦略・企業戦略の重要なポイントの一つといえるだろう。
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